曇った空を見ながら、雨が降りそうだなと思って帰る足を早めた。傘なんて持ってきてないのに、どうしよう。ただでさえ寒いのに、雨なんかに降られては大変だ。と、思ったらポツ、と水が当たった。 「うそー!」 家までまだ結構歩くのに、ここらには店もほとんどない。雨は一気に強くなって、すでに私はびしょ濡れ。それでもどこかで雨宿りしようと、辺りを見渡す。 「あれ?」 「」 左のほうにある建物に向かうと、そこからトシが出てきた。真選組の隊服じゃなくて私服だから今日は休みなんだ。 「お前びしょ濡れじゃねぇか」 「うん…。ね、傘持ってる?」 「ああ」 そう言ってトシは上着を私にかけて傘を差した。その隣に入ったら、持っていたスーパーの袋を取られた。 「あ」 「…別に」 トシは右手に傘、左手にスーパーの袋。私は何にも持ってない。左手で煙草を吸うトシの手を見つめる。 「…ジロジロ見んなよ」 「…やっぱり、傘私が持つよ」 「お前が持つと傘が頭に当たんだよ」 「じゃあ袋持つから」 「ゴチャゴチャ言ってねぇで甘えてりゃいいんだよ」 そうだよ、私は甘えたいの。この冷えた手を温めてほしいんだよ。でもトシはいつも手なんて繋いでくれないしなぁ。仕方なく宙ぶらりんの手を弄ぶ。 「……やっぱこれ持て」 「え?」 トシは煙草を消して、スーパーの袋を私に持たせた。そして、傘を左手に持ち替えて 「……」 「何ボーっとしてんだ」 「だって、手。いつも繋いでくれないのに」 「今は寒ぃからな」 繋いだトシの手は温かくて、私のそれが温まるのがわかった。 「寒くねぇか」 「あったかい」 「嘘吐け。びしょ濡れのくせに」 「本当だよ」 確かに寒いけど、手と顔はちょっとだけあったかいんだよ。 05.11.29 |