3年生になって1ヶ月。クラス替えでうちの学校一の美少年と言われる藤真と同じクラスになって、ミーハーな友達からはひたすらうらやましいと言われ続けた。強豪のバスケ部のキャプテンでしかも整った顔立ちの藤真を知らない人はほとんどいない。私も1年の頃から知ってはいたけど、友達と違って別にキャーキャー言ったりはしていなかった。確かに綺麗な顔だなぁ、とは思うけど。 「、どの席になったー?」 「あ、一番後ろになった。ラッキー!」 水曜の6時間目のHRで、最初の席替え最初の席替えが行われた。出席番号で座ってた席では一番前だったので、これを待ちに待っていた。意気揚々とくじで引いた席へ移動する。廊下から2列目の、一番後ろの席。 鞄を置いて、席に座ると隣の席、つまり廊下に一番近い席を誰が隣かなぁと思いつつ見た。席替えで沸き立っているので、まだクラスの半分以上が黒板の前で嫌だとかよかったとか言っている。 「お、が隣か」 ドカッと隣の席に鞄が置かれる。隣の席は、藤真。 「藤真」 「教科書忘れたらよろしく」 うわぁ藤真が隣になってしまった、どうしよう友達に恨まれるかな。そう思いちらっと隣を見ると、藤真は早く部活に行きたいのか早速帰り支度を始めてる。 「まだHR終わってないよ」 「ああ」 「何でそんなに急いでるの?」 「部活早く行きたいから」 「へえ、そんなにバスケ好きなんだ」 やっぱり近くで見ると綺麗な顔だなぁとか考えながら、思いついたことはぺらぺらと喋っていた。せっかくうちの学校の有名人と話すチャンスができたんだから、喋ってたい。 「」 「ん?」 「うるさい」 こう、ぴきっと、私の頭に漫画みたいな血管が浮き出たあのマークが出た気がした。今まで藤真と話したことはなかったけど、クラスで見ていたので噂されてるような優しいやつではないと知っていた。藤真ファンの友達にそう言ったら、「かっこいいからいいの!」と言われたが。やっぱりダメだ、やっぱりかっこよさより優しさねと藤真を見ながら思った。 次の日、昨日のことが妙にムカついていた私は、藤真におはようの挨拶もしないで席についた。本鈴が鳴って、鞄の中から一時間目の英語の教科書を取り出す。普段は教科書なんて持って帰らないけど、昨日は宿題があったため持って帰らなければならなかった。 「」 「何?」 藤真ががたがたと机を近付けながら話しかけてきた 「教科書見せて」 「え、忘れたの?」 「そう」 藤真が自分のと私の机をくっつけると、私の手から教科書を取って二つの机の真ん中に置いた。「何やってるそこー」と先生に言われて藤真が「教科書忘れました」と言った。昨日よりも顔が近い、やっぱりかっこいい。 「昨日の宿題の答え合わせするぞー」という先生の声でハッとして、慌ててノートを開いた。 「…、それ宿題?」 「ん?そうだけど」 「間違えすぎ」 え!?と慌てて自分のノートを隠した。間違えすぎって、うわあ藤真に見られるなんて最悪だ! 「、頭悪いんだな」 「ちが、英語は苦手なの!」 「ふーん」 すると藤真は、私の机につらつらと英単語を書き始めた。 「わ、何やってんの」 「答えだよ、宿題の。お前今日当たるだろ」 あ、そうだ、昨日確か私の前の番号の人まで当たってたんだ。 「ありがたいけどさ、机に書かないでよ」 「だってノート隠すし」 そう言って藤真はどんどん机に書いていく。意外と優しいのかな、と思いつつ昨日よりずっと近くにある藤真の顔を見た。 「はい終わり」 「あ、ありがと」 「別に。教科書見せてもらってるし」 整った顔に見とれてて、ついボーっとしてしまった。藤真が机に書いた答えをノートに写して、机のほうのを消そうと消しゴムを出そうとした。 「あ、」 「どうした?」 「ごめん、消しゴム貸して」 「忘れたのかよ、だらしない」 「藤真だって教科書忘れてるじゃん」 オレはいいんだよ、と言って藤真は私に消しゴムを渡した。あ、手が触れた。 「おい、落とすなよ」 「ご、めん」 うまく取れなくて、漫画みたいに消しゴムを落としてしまった。さっき触れた手が熱い。 ああ、これはもしかすると恋する3秒前というやつですか。 07.01.18 優しくない人に優しくされると妙にときめく例のアレ |