彼はコーヒーカップに角砂糖を入れた

   一つ、二つどころではない

   コーヒーって苦いものじゃないの?という疑問が浮かび上がるのは毎度のこと

   見ているだけで口の中が甘くなってくる


   「L、本来コーヒーは苦いものです」

   「知ってます」

   「…じゃあ何でそんなに砂糖入れるんですか」

   「甘いものが好きだからです」

   「だったらコーヒーでなくてもいいのでは?」

   「甘いコーヒーが好きなんです」


   彼はコーヒーを一口飲む

   これのどこがおいしいのだろう、私にはさっぱりわからない


   「も飲みますか?」

   「…遠慮しておきます」

   「そうですか。おいしいのにもったいないです」

   「…L、いつも思うのですが」

   「何でしょう」

   「自分が好きなものだからと言って周りもそれを好きとは限りませんよ」

   「わかってますよ」


   もう一度コーヒーカップに口をつけ、今度は一気に飲み干した

   ああ、胸焼けがする…


   「わかってるなら勧めないでください」

   「そうですね、すみません」

   「私はコーヒーには砂糖2個です」

   「…こんなにおいしいのにもったいないです…」


   さっきと同じ言葉を繰り返している

   相当これがお気に入りなんだろうか


   「みんながみんなLと同じ好みだったら大変ですよ」

   「…そうですね、困ります」

   「ええ、地球上から砂糖がなくなります」

   「いえ、そういう意味でなく」

   「?」


   Lは砂糖を2個入れたコーヒーを私に渡す


   「みんな私と同じ好みだったら、みんなを好きになってしまいますから」



   「………」

   「おいしいですか?コーヒー」

   「…ええ、まぁ…」


   Lはそうですか、と満足そうに言った









角砂糖100個分

きっと私にとって彼の言葉は、角砂糖100個より甘い


















   06.11.03