ごめんね、の一言さえ言えたらきっと今とは違う未来があったのだと思う。
当時の私は「ごめんね」と言ったら自分の負けのような気がして、どうしても言えなかった。
今ではごめんねなんて、1回どころか100回でも1000回でも、三井が満足するまで繰り返し言えるのに。
だけれども、もう私と三井が話すことなんてないんだろう。

学校を出るときに、たまたま三井を見かけた私は見失わない程度の、それでも見つからない程度の距離を保ちながら彼の後ろを歩いた。
ほんの3ヶ月前まで、当たり前のように三井の隣には私がいた。
今では三井の隣に私はいないし、私の隣に三井はいない。
たとえば、今ここで三井に話しかけて「あのときはごめんね」なんて言ったとして、もう一度やり直せるのだろうか。
やり直すことが無理だとしても、普通に話したりとか、そういう関係とか…いや、不毛なことを考えるのはやめよう。
きっと謝ったところで、3ヶ月の空白を戻すことは無理なんだ。

「私と部活と、どっちが大事なの」なんて、ありきたりな文句を言ったら、「そんなこと聞いてんじゃねえよ、バカ」と、三井は間髪入れずにそう言った。
確かに、こんなことを聞いた私が一番バカだったのだ。
嘘でもいいから私と言って欲しかったし、だけど部活を大切にする三井が好きだった。
結局のところ、自分でも矛盾したままなのに、そんなことを聞いてしまったからいけないんだ。
それで口火を切ったようにありきたりなケンカをして、ずっと不満に思ってたこともたくさん言って、思ってもないこともたくさん言って、そのまま話さなくなって、目も合わせなくなって、それでお終い。
一生離れることなんてないと思っていたのに、恋愛関係なんてそんなもの。


三井は今でもあのときあんなことを聞いたことを怒っていますか。
それともその後のケンカのことを怒っていますか。
「ごめんね」と、小さな声で呟いてみたけれど、目の前の三井は遠い。その声はもう届かなかった。













メビウスの囁き
08.02.08