私より先に死んだらいけませんよ、Lが小さな声でそう言ったのを私は聞き逃さなかった。


「どういう意味?」
「あ、聞いてましたか」
「それはもうしっかりと」

聞こえていないつもりだったんだろうか。いくら小声で言ったところでこの部屋には私とLしかいない上に、音楽どころかテレビもついていない。相手の顔を見なくたってあくびしていることだってわかるくらい静まり返ってるのだ。こんな部屋で何か言葉を喋れば全部筒抜けになることくらいわかってるはずでしょ?

「そのままの意味ですよ」
「いや、それはわかってるよ。何でいきなりそんなこと言うの?」
「なんとなく、いきなり思ったんです」

拗ねたように目の前にあった角砂糖をいじって、口を尖らせた。何で拗ねてるの?と聞いてみたけど拗ねてなんかいませんと返された。じゃあその口は何よ?Lの行動パターンは本当によくわからない。理にかなっていると思うときもあれば、全くの余計なことをするときもある。

「先に死なないって、約束はできないよ」
「どうしてですか?」
「だっていつ死ぬかなんてわからないじゃない」
「そこをなんとか頑張ってください」

Lは頭はいいくせに、こういうときやたら感情的っていうか、全く論理的でない。そんな感情だけで人が死ななくて住むというのなら今世界は人で溢れ返ってるって。

「無理だよ」
「…嘘でもいいからわかりましたと言って下さい」
「いや」
「どうしてですか?」
「私だって、Lに先に死んでほしくないから」

Lが角砂糖をいじるのをやめたので、私はそれを口に含んだ。甘い。私も甘いものは好き。

「それじゃしょうがないですね」
「そうでしょう」
「じゃあ、お互いなるべく長生きするということで」
「そういうことで」












いきるということ
07.12.09