「今日エイプリルフールだね」
「そうだね」

4月1日。今日はエイプリルフールだ。
まあ、何をするわけでもなく、ただ辰也の部屋で彼と二人で過ごしているだけだけど。
私も辰也も、そういうイベントにノリノリで参加するタイプではないし。

「何か嘘吐く?」
「うーん、思いつかない…」
「そういうものだよね」

素直に答えると辰也は笑う。
嘘って、ぽんと出て来ないんだよね。
辰也を傷つけるような嘘は嫌だし、すぐに出てくるものじゃない。


「?」
「オレ、実はバスケ嫌いなんだ」

辰也は読んでいた月バスを私に投げてそう言った。

「4月バカ?」
「思いつくのはこれくらいかな」
「ふふ」

月バスを辰也に返す。
あんなに一生懸命練習する辰也が、バスケを嫌いなんて…、

「……」
?」
「…今のは、本当に嘘?」

真剣な声で、そう聞いた。
辰也はバスケが大好きだ。見ていて痛々しくなるほどに。
毎日たくさん練習して、少しでもうまくなろうと、彼らに近付こうと、努力している。
だからこそ、何か。何か思うことがあるんじゃないかと、思ってしまった。

「…は」
「…」
「本当に、すごいね」

辰也は私を優しく抱き寄せた。
少しの沈黙の後、辰也はゆっくり口を開く。

「嘘じゃないよ。バスケが好きだよ」
「うん」

それは間違いなく辰也の本心だろう。
辰也の背中を撫でるように抱きしめる。

「でも、ときどき、たまらなくなるんだ。苦しくて、全部、投げ出したくなる」

辰也は苦しそうな声で、そう話す。
辰也を抱きしめる力を強めた。

「…でも、それでも、やめられないんだ」

小さな声で呟く。
すぐ近くにいる私にしか聞こえないような、小さな声で。

「…だって、バスケが、好きだもんね」

できるだけ優しい声でそう言うと、辰也は切なそうに笑った。

「…は、なんでもお見通しだ」
「辰也のことだもの」
「そっか」

辰也は私の肩に顔を埋める。
小さい子みたいだ。

「…好きだよ」

辰也の優しい声が部屋に響く。
大丈夫。私は全部、知ってるよ。













かくれんぼ
14.04.01

嘘に隠した本当と 本当に隠れた嘘







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