ポケットから鍵を出して、家のドアを開ける。
家族の待っている家に。
「ただいま」
「おかえりなさい!」
「わっ!」
翠が飛びついてくるから、ひょいと抱き上げた。
「ただいま翠」
「お父さんおかえりなさい!あ、おはなだ!」
翠はオレの持っている薔薇に興味津々だ。
「触っちゃダメだよ。棘があるから痛いんだ」
「いたいの?」
「そう」
翠を下して靴を脱ぐ。
翠が薔薇の棘に触れないように気を付けながら。
「あのね、きょうお母さんとチョコつくったんだよ!」
「チョコ?」
「うん、バレンタインデーだから!」
だから早く!と言って翠はオレの腕を引っ張る。
そうしていると、キッチンからがやってきた。
「おかえりさない」
「ただいま」
そう言ってキスをする。
いい匂いがする。
「、はい。いつもありがとう」
「ふふ、ありがとう」
そう言って薔薇の花束を渡す。
日本でやる人は少ないけど、バレンタインにはやっぱりに薔薇の花束を渡したい。
「愛してるよ」
「私も」
もう一度キスをすると、翠がズボンの裾を引っ張ってきた。
「お父さん、チョコレート!」
「ああ、ごめん。すぐ食べるよ」
「そのまえに手あらう!」
「はは、はいはい」
そう言って荷物を持って洗面所へ向かう。
手を洗ったら、翠の作ってくれたチョコレートだ。
「はい、チョコレート!」
「ありがとう」
「お母さんとつくったんだよ!すごい?」
「すごいよ。翠は天才だ」
「えへへ!」
翠は嬉しそうな顔で笑う。
笑った顔が、にそっくりだ。
「おいしいよ」
「ほんとうに?」
「うん」
「えへへ〜お父さんだいすき!」
翠はオレの膝の上でゴロンと寝ころぶ。
オレも翠が大好きだよ。
「お母さんはチョコレートあげないの?」
「後でね」
翠はの方を向いてそう聞く。
は悪戯っぽい笑顔で「後で」と答えた。
「チョコの前にご飯よ。翠、お兄ちゃん呼んできてくれる?」
「うん!」
さて、夕飯だ。
カレーのいい匂いが部屋に広がる。
*
「子供たちは寝た?」
「うん。ぐっすり」
夜、騒がしかった家が静かになる。
子供たちが眠るだけで、こんなに家は静かになってしまうのか。
「はい、辰也」
「ありがとう」
がチョコレートを渡してくれる。
綺麗にラッピングされたチョコレートだ。
「翠もくれるし、素敵なバレンタインだ」
「ふふ。いつか男の子に渡すようになるかもよ?」
「……」
の一言で一気に不機嫌になる。
……翠が……。
「わ、不機嫌な顔」
「……」
「しばらく大丈夫よ、お父さんっ子だもの。今日も作ってる間お父さんお父さんって言ってたし」
「…」
「単純」
「?」
「すぐご機嫌な顔になるんだから」
そう言われて頬を抑える。
よく「ポーカーフェイス」なんて言われたけど変わったのか、それとも、だからわかるのか。
「」
「んー?」
「チョコレートありがとう。大切に食べるよ」
「どういたしまして。辰也も薔薇ありがとう」
「どういたしまして」
「翠も薔薇欲しがってたね」
「…翠にはあげられないなあ」
翠は大切な愛する娘だけど、バレンタインに薔薇の花束をあげられるのは一人だけだ。
「翠にもいつか薔薇をくれる人が現れるかも」
「…」
「もー、本当単純なんだから」
はしかめっ面をしたオレの頬にキスをする。
「私のことはお嫁にもらったくせに」
「オレはいいんだよ」
「もう。ま、さすがにまだ先だろうけど」
翠の将来に不安を感じながら、のくれたチョコレートの包みを解いて、一つ食べる。
甘い。
「おいしい」
「ありがと」
「甘いね」
「辰也、甘いの好きでしょう?」
甘いのが好き、というより、がくれるなら甘いものがいいというか。
ちょっと我儘だけどね。
「…欲しい?」
が物欲しそうな顔を覗いてくるから、そう聞いてみる。
「…ううん。自分でも食べたし」
「そっか。じゃあ」
そう言ってに触れるだけのキスをする。
「欲しいのはこっちだ」
の頬はほんのり赤くなる。
いくつになっても、いつまでたっても、は可愛い。
「…もう」
「いらなかった?」
「…ううん」
もう一度キスをする。
溶けそうなくらい、甘い。
「…愛してるよ」
「私も」
今も、今までも、これから先もずっと、君のことを愛しているよ。
愛しているよ
14.02.14
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