12月24日、クリスマスイブ。
残業せずに会社から出て、恋人である辰也と待ち合わせ。
なんてロマンティックな夜だろう。
しかし、これから向かおうとしている場所は、それとは正反対のところだ。
「辰也!」
「、ごめん。駅が混んでて」
「大丈夫、急ごう?試合始まっちゃう」
私と辰也が向かう先は、東京体育館だ。
昨日から始まった、ウィンターカップの観戦のために。
今日は私たちの母校、陽泉の試合がある。
さすがに仕事が終わってから向かうと試合は始まってしまっているけれど、仕方ない。
途中からでも母校の雄姿は見届けたい。
「あ、勝ってる!」
中に入ると、44対21。
第3Qに入ってこの点差、油断はできないけれど快調のようだ。
「今年シード取れなかったからどうなるかと思ったけど…快調みたいだね」
「ああ、よかった。あ、でも監督の顔が険しい」
「ふふ、本当だ」
席から見えるぐらい、監督の表情は険しい。
隣にいるマネージャーの子が脅えてしまっているぐらいには。
「あ、あの子…」
「あの子?」
「5番の子。そんなポジショニングが…ああ、そうそう」
辰也はつい熱中してコーチみたいなことを言い始めている。
バスケのことになるといつもこうだ。
周りが見えなくなって、子供みたいに熱くなる。
見た目は昔から大人っぽくて一見落ち着いているようなのに、実はとても子供っぽい。
そんな辰也が好きだなあと、いつも思う。
「あ…ファール」
「ああ、もう」
陽泉の10番がオフェンスファールだ。
ああ、せっかくいい感じに攻めていたのに。
「焦らないで、点差はあるから。ゆっくり」
気付けば私もいつの間にか独り言を零している。
熱い試合を見ていると、高校時代、バスケ部のマネージャーをやっていた頃を思い出す。
あの熱さ、がむしゃらさ。そんなに前ではないのに、もう遠い昔のことのようだ。
「はー、勝ったね!」
「ああ、よかった」
陽泉高校は途中追いつかれそうになったけれど、無事勝利を収めた。
私たちは安心して、他の試合の観戦に移った。
陽泉以外の試合も興味がある。
席を移動して、対戦経験のある高校の試合を見ることにした。
「ああ、こっちは接戦だ」
「だね。どっちが勝つかなあ…」
手に汗握りながら、辰也と試合を見届ける。
3Pが決まったり、バスケットカウントが決まったりするたびに起こる歓声に、私たちも共に沸き立つ。
緊迫試合の中、僅差で勝っている方の高校がタイムアウトを取った。
観客側も前のめりからふう、と背もたれに背中を付けて一息つく。
「、ごめんね」
「え?」
辰也が突然私の手を取って、謝罪の言葉を口にする。
首を傾げると、辰也は申し訳なさそうな顔をした。
「せっかくイブなのに、こんな色気のないところで」
「ああ、そんなこと?いいよ、全然」
何かと思えばそんなこと。
私だってウィンターカップを見たかったし、謝られるようなことじゃない。
「私だって試合見たかったし、見終わったらご飯食べに行くし、それでいいよ」
「本当?」
「うん。もう長い付き合いでしょ?いいの、本当に」
せっかくのイブ、バスケ観戦だけで終わっていたら寂しかったかもしれないけれど、この後二人でディナーに行く予定だ。
まあ、観戦の後だから服装的にもそんなに畏まった場所じゃないけれど。
それでもいい。私だってバスケ好きだし、何より辰也といればどこだって。
「辰也といればどこだっていいの」
強がりでもなく、純粋にそう思う。
好きな人の隣で好きなものを見る。なんて素敵なワンシーンだろう。
「オレもだよ」
「ふふ」
辰也と手を繋ぎなおす。
試合はまだ始まったばかり。
楽しい時間は、まだ続く。
君といればいつでもどこでも
15.12.24
メリークリスマス!
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