「ただいまー」

玄関から大我の声がする。帰ってきたようだ。
お迎えしたいところだけど、今ちょうど鍋から手が離せない。

「おかえりー」

ちょっと大きい声でそう言って、味見をする。
…うん、私の作るカレーはおいしい!大我には敵わない気もするけど、まあ、大我だしね…。

「……?」

それにしても、大我遅いな。
そんな面倒な靴を履いてるわけじゃないのに、部屋に入って来ない。
どうしたんだろう。

「大我ー?」

もう鍋も大丈夫だし、玄関へ行く。
大我は玄関に座っている。

「何してるの?」
「うおっ!?」

声を掛けると想像以上に驚かれる。

「な、なに?」
「いや、その…」

大我はなんだかもじもじしている。
なんだろう。

「…これ」

大我は立ち上がると、花束を渡してきた。
大我の大きな体に隠れて見えなかったようだ。

「…え?」
「だから、これ、やる」
「え、なんで」

大我と花束が不似合すぎて動揺してしまう。
え?花束?なんで?
今日は誕生日でも結婚記念日でもホワイトデーでもない。
なんで花束なんて…。
「お前に似合うと思って思わず買っちゃったよ」的な?
いや、大我に限ってそんなことないな…辰也さんならやりそうだけど。

「…今日は、あれだろ」
「あれ?」
「3月9日だから…まあ、その、いつもサンキュ、みたいな…」

3月9日。ありがとうの日。
そっか、だからか…。

「……」
「お、おい!どうしたんだよ!?」

ありがとうの日。いつもありがとう。
大我の言葉を理解したら、涙が溢れてきた。

「な、なんで泣いてだよ」
「だって嬉しいんだもん!」

そう言って大我に抱き着く。
もう、もう、大我大好き!

「…いつもありがとな」

大我は私の頭を撫でながらそう言う。
大我と結婚して、よかった。





「でもよく『ありがとうの日』なんて覚えてたね」

夕飯後、リビングの花瓶に大我からもらった花を飾りながら大我に話す。

「あー、タツヤからメール来て」
「辰也さん?」
「今日はありがとうの日だから感謝してる人に何かしないとって」
「なるほどね」

大我がこういうイベントを覚えてるなんて珍しいと思ったらそう言うことか。

「で、辰也さんが私に花束買ったら?って」
「いや、それは別に」
「?」
「帰り道の花屋で見つけて、お前に似合うかなって思って」
「……」

大我は真顔で、照れもなくそう言ってくる。
大我に限ってそんなことって思ってたのに。

「?どうしたんだ?」
「なんでもなーい」

そう言って大我の隣に座って、大我の肩に頭を乗せる。
本当に、本当に、この人と結婚して、よかった。










『ありがとう』
13.03.09





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