「ただいま」
玄関から声がする。千尋の声だ。
仕事を終え帰ってきたようだ。
「おかえり」
「ただいま。…?」
千尋はリビングの椅子に座って、机の上にある箱を手に取った。
「あ、それね、あげる。プレゼント」
「は?」
千尋は怪訝な顔で私を見つめる。
確かに今日は千尋の誕生日でもなければホワイトデーでもない。
何か記念日という日ではないから、そういう顔をされるのも仕方ない。
「今日はありがとうの日でしょ。だからあげる」
そう言うと千尋は目を丸くした。
多分、考えてもみなかったのだろう。でも、3月9日はありがとうの日だ。
別に祝日でもないしバレンタインやクリスマスみたいにメディアで取り上げられるわけじゃないから、特に思いつかないのだろうけど。
「…?なんか感謝されるようなことしたか?」
千尋は箱を机に戻してしまう。
素直に受け取ってくれればいいのに、この人はそうもいかない。
「そりゃあ、いつも仕事してくれてるし」
お腹が大きくなってきた私はすでに仕事は産休に入っている。
休まず仕事をしてくれている千尋にはやっぱり感謝の気持ちがある。
「それに、そこにいてくれてありがとうって思ってるよ」
そう言って机の上の箱を手に取って、千尋に渡した。
大袈裟と言われれようと、愛する人がそこにいる、それだけで感謝の念が湧いてくるものだ。
「……大袈裟」
「やっぱり。言うと思った」
「…どーも」
千尋はそう言いつつも、プレゼントを受け取ってくれる。
少し目線を逸らしていることから、ああ、照れているんだなと思った。
「…飯、できてんの?」
「あ、まだ。私も検診から帰ったばっかで」
「…そ。たまには作る」
「え?」
千尋はそう言って上着を脱いでネクタイを緩めた。
「…感謝の日なんだろ、今日は」
そう言われて、胸の奥が温かくなった。
そっと自分のお腹に触れた。
「ありがと。すっごく嬉しい」
「…どーも」
千尋はぶっきらぼうに返事をしながら、台所にあるレジ袋を覗いた。
「チャーハン?」
「その予定だったけど、別にほかのでも」
「チャーハンでいい。楽だし」
そう言って千尋は着替えるために部屋に行った。
その後姿を見ていると、胸が高鳴ってしまう。
あ、なんか今、すごく幸せかも。
ありがとうの日
15.03.09
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