「お疲れ様でしたー」
「お疲れ様」
今日の部活も終了。校門をくぐって家路につく。
「、帰りか?」
「虹村」
名前を呼ばれて振り向くと、同じ部活の虹村がいる。
「うん。虹村ももう上がり?」
「おう」
虹村とは帰り道が途中まで一緒だ。
時間が合うとこうやって一緒に帰ることもしばしばある。
「あー寒い…」
「3月なのにな」
「3月って結構寒いよね」
そんな話をしながら二人で歩く。
大分日が落ちるのも遅くなったけど、うちの部は遅くまで部活をやるから今はもう真っ暗だ。
「…なあ、ちょっと付き合ってくんね?」
虹村は突然真剣な声でそう言ってくる。
「?どこに?」
「…や」
「え?何聞こえないんだけど」
「…花屋」
「は?」
「だから!花屋だっつの!」
虹村が、花屋…!?
「え、なに、どうしたの?花屋で何するの?」
「花屋で花買う以外何すんだよ!」
「あんたがなんで花買うの…?」
「オレが欲しいんじゃねーよ!お袋が買って来いって言ってんだよ」
「お母さん?」
「明日親父が一時退院すっから、部屋明るくしたいっつって。今日明日はお袋準備とか親父の迎えとかで忙しいし」
ああ、なるほど、そういうことか。
虹村のお父さんは入院している。
バスケ部は誰も知らないけど、私だけ知っている。
二学期の終わりに私のおじいちゃんが盲腸で入院したのでそのお見舞いに行ったら、お父さんのお見舞いに来ていた虹村に会ってしまったのだ。
虹村は学校の人たちには誰にも知られたくないようで、「誰にも言うな」と固く約束させられた。
その後、虹村から度々お父さんの話を聞くようになった。
多分、今でもお父さんのことは私しか知らない。
「適当に買おうかと思ったけど、お前オレよりは花のことわかるだろ」
「まあ、それなりに」
「お前選んでくれよ」
「そういうことならもちろんOKです」
そんなことを言われて断れるわけがない。
元より、断るつもりもなかったけれど。
*
「どういうのがいい?」
商店街の花屋に来て、一つ一つ見つくろう。
選んでくれと言われたけど、虹村のお父さんのためなんだし、ある程度は虹村に選んでもらおう。
「フリージアとかいい匂いだよ」
「どれ」
「これ」
「それでいい」
「いやいやいや、ちょっとは選ぼうよ」
「どうせわかんねーし」
「もう。じゃあ、これとこれならどっちがいい?」
「……」
虹村に二つから一つを選ばせる。
これなら選べるだろう。
「こっち」
「ダリアね。華やかだしいいんじゃない?」
あまり日持ちしないけど、お父さんは一泊だけするみたいだし大丈夫だろう。
ダリアに合いそうな花をいくつか見つくろう。
「…ね、虹村。お母さんにも何か買ったら?」
「あ?」
「ほら、ね」
店内にあるポップを指さしてそう言ってみる。
そこには「3月9日は感謝の日です。大切な人に花を贈りましょう」と書かれている。
「お母さんも今大変でしょ?」
「……」
虹村は少し考える表情を見せる。
「…どーいうのがいいんだ」
少し照れくさそうな顔で、虹村は呟いた。
「やっぱりカーネーションじゃない?」
「今の時期もあんのか?」
「あるよ。赤以外もたくさん。どの色がいい?」
「どれでもいい」
虹村は恥ずかしそうに言う。
中二の男子がお母さんに花を、なんて恥ずかしいだろうし、ここからさらに選ばせたら「やっぱやめる」とか言いかねない。
とっとと決めてあげよう。
「やっぱお母さんには赤かな」
「おう。んじゃ会計してくる」
「うん、あ…」
虹村が店員さんと話し出したと同時に私の携帯が震える。
お母さんから電話だ。
お店から出て電話に出た。
*
「待たせたな」
「あ、虹村」
「なんだ、電話してたのか」
「うん、お母さん。今日家に着くの何時くらいになるのって」
「ああ、悪い。付き合わせたから遅くなったもんな」
「別に大丈夫だよ」
「送ってく。もう暗いし」
「え、でも」
「行くぞ」
いいよ、と言おうとすると虹村はそれを遮る。
…ありがたいし、送ってもらおう。
また二人並んで歩き出した。
「ここだっけか」
「うん。ありがと」
「……」
「?」
私の家に着いて、虹村にお礼を言って家に入ろうとしたら、虹村が何か言おうとしているのに気付いて足を止めた。
「どうしたの?」
「…ありがとな」
突然の言葉に目を丸くする。
「なんだよ、その目は」
「いや、まさかそんなこと言われると思ってなくて」
「お前オレのことなんだと思ってんだ」
「わっ!」
思いっ切りデコピンされた。
痛い。
「…今日だけじゃなくって」
「?」
おでこをさすりながら虹村の話に耳を傾ける。
「いつも、ありがとな」
「…虹村」
「部のことも、あと話聞いてくれたり」
なんだか照れくさくて、何言ってるのとからかおうとしたけど、虹村の顔が真剣で何も言えなくなってしまう。
「なんつーんだ、本当、感謝してる」
恥ずかしくなって、俯いてしまう。
なんだか妙に恥ずかしい。
「…虹村」
「…また、なんかあったらよろしくな」
「う、うん。もちろん」
「…じゃあ、また明日な」
「う、うん。また明日」
そう言って虹村の背中を見送った。
なんでだろう。
まだ3月、寒いはずなのに、顔がとても熱いのは。
『ありがとう』
14.03.09
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