「おばさん、こんばんは」
「あら、ちゃんこんばんは」

隣の家である修造の家に回覧板と家族旅行のお土産を渡しに来た。
出てきたのは修造のお母さん。
修造はまだ帰ってないようだ。

「これ、お土産です」
「あらあら、ありがとう。どうせなら一緒に食べない?」
「いいんですか?」
「いいのよ〜、一人で食べるより二人で食べたほうがおいしいわ。修造今日も遅いみたいだし」
「じゃあ、お邪魔します」

おばさんの言葉に甘えることにする。
リビングでお土産を開ける。
お饅頭だ。

「お茶淹れるわね」
「あ、ありがとうございます」

おばさんと二人でお茶を飲みながらお饅頭を食べる。
甘いものを食べるって幸せだ。

「ただいま」
「あら、もう帰ってきたの」

玄関の方から修造がやってくる。

「あれ、お前来てたの」
「うん、これお土産」
「なんでうちへのお土産お前が食ってんだよ」
「いいじゃない、修造も食べなよ」

そう言ってお饅頭を一つ手に持つ。
修造は呆れたように息を吐いた。

「お前なあ」
「あ、お弁当箱そこ置いておいて」

修造が鞄からお弁当箱を出す。
…修造、お弁当持って行ってるんだ。

「着替えてくる」
「はーい」

修造は一旦部屋に入る。
私は二つ目のお饅頭を手に取った。

「…修造、お弁当なんですね」
「そうねえ。学食も食べてるみたいだけど育ち盛りだからたくさん食べるのよ」
「…ふーん」

お弁当かあ…。

「おい、お前何二つも食ってんだよ」

修造が部屋着に着替えて部屋から出てくる。

「えーお腹空いちゃって」
「夕飯食ってねえの?」
「…食べた」
「太るぞ」
「修造だって学食だけじゃなくお弁当も食べてるんでしょ」
「成長期だからな」
「私だって!」
「横に?」

修造の言葉にムッとしてお饅頭を一つ投げつけたけど、あっさりキャッチされた。
おばさんはニコニコしながら、私たちを見ている。

…おばさんは、私たちが付き合ってること知ってるのかな。
うちのお母さんは知っているけど、修造とおばさんがそんな会話するとは思えないし…。
私たちは私たちで、たまに手を繋いだりするぐらいで、前とそんなに関係が変わった訳じゃない。
話す内容は相変わらずくだらないことだし、傍から見たらただの幼馴染だろう。
あ、でも、うちのお母さんがおばさんに話してるとかは、ありえるか…。

「あ、修造。お饅頭食べたなら回覧板回してきて」

お茶をすする修造におばさんは言う。

「隣でいいんだよな」
「そう」

修造は立ち上がるを、回覧板を持って部屋から出て行った。

「…ね、ちゃん。今週の土曜日暇?」
「え?暇ですけど…」
「じゃあ、悪いんだけど修造にお弁当作ってくれない?あの子練習試合があってね」
「え」
「私どうしてもその日朝出かけなくちゃいけなくて。きっとちゃんが作ったのなら修造も喜ぶし」

おばさんは笑顔でそう言ってくる。
…これ、おばさん知ってるんだな。
母親同士もネットワークなのか、それとも「おかあさんはなんでも知っている」というやつだろうか。

「ね?」

にっこり笑ってそう言われてしまっては断れない。
今度の土曜日、修造にお弁当を作ることになってしまった。





「ふあ…」

土曜日。
修造は朝早く出かけるらしいから、私も早く起きた。
修造のお弁当を作るためだ。

「……」

黙々とお弁当を作る。
たくさん食べるから量は多めに。
卵焼きは甘いのじゃなくて出汁がきいたものを。
唐揚げは竜田揚げ。
昔から一緒にいて把握した、修造の好みだ。

「…はあ」

なんだか、とても緊張してきた。
大丈夫、そんなに不味くないはず。
大丈夫、大丈夫。
そう言い聞かせるけど、どうしても不安になる。
だって、好きな人に料理を作るんだ。
おいしいと、思ってくれるだろうか。

「…あ!」

必死にお弁当を作っていたら、もういい時間だ。
修造の家に行ってお弁当を渡さないと。

家を出て、隣の修造の家にインターホンを押す。
出てきたのは修造だ。

「どうしたんだよ、こんな早くから」
「あ、あの、これ」
「?」
「…お弁当」

修造は驚いた顔をする。当然だ。

「…は?」
「だから、お弁当!」
「なんでお前が」
「おばさんに頼まれたの!今日作れないから代わりに作ってくれないかって」

そう言ってお弁当を修造に無理矢理持たせる。

「お、おう」
「ちゃんと食べてね!それじゃ!」

なんだか恥ずかしくて、慌てて自分の家に戻ってしまった。
…ちゃんと食べてくれるよね。





「あー、腹減った。やっと昼だな」

今日は午前と午後で練習試合が一つずつ。
まあ、何かない限りオレは午後のやつには出ないだろうが。

「飯食おうぜ」
「おう」

部活の仲間と一緒に弁当を広げる。
確かに昨日、母親に「明日は弁当を作れない」と言われたけど、まさかが作って来るとは思わなかった。
行く途中に適当にコンビニで買おうと思ってたんだけど。
なんつーだ、これもサプライズってやつか。

「……」

緊張しながら弁当箱を開ける。

「どうしたんだよ虹村。食わねえの?」
「あ、いや、食う」

予想以上に綺麗な中身に驚きを隠せない。
…いや、昔からチョコ作ってくれてたんだし、当然っちゃ当然か。

「…いただきます」

小さい声でそう言って、箸を手に取る。

「……」

…あいつ…。

「…わり、オレちょっと行くわ」
「?」

弁当箱のふたを閉めて、その場から離れる。
ダメだろ、こんなの。
あいつ、何考えてんだ。


「…はあ」

体育館から出て、一人でもう一度弁当を広げる。
一口食べると、顔がゆるむ。
こんな顔、部活の連中に見せられるか。

つか、なんだんだよ。あいつエスパーか。
なんで甘くない卵焼きとか、竜田揚げとか、オレの好み把握してんだ。
…いや、当たり前なのか。
今まで一緒にいたんだから。

「…うまい」

小さい声で、そう呟いた。






「あ」
「お」

ノートを買ってコンビニを出たら、修造に会った。
部活帰りのようだ。

「…お帰り」
「おう」

修造は私を一瞥すると、ぷいとそっぽを向いてしまう。

「しゅ、修造」
「…なんだよ」
「あの、お弁当、どうでした」

恐る恐るそう聞いてみる。
ま、まずくはないよね…?

「ぎゃっ!?」

修造は鞄からお弁当箱を出すと、乱暴に私の顔に押し付けた。
痛い。

「痛い!」
「うまかった」
「え」

お弁当箱を取って視界を開くと、修造は少し赤い顔になっている。

「え、え」
「一回しか言わねー」
「ええ!?」

い、今、『うまかった』って言ったよね!?

「も、もう一回!」
「言わねーつってんだろ!」
「じゃあもう作らないよ!」

そう言うと修造はぐっと声を詰まらせた。

「…う」
「……」
「うまかった」

修造の言葉に、顔が綻ぶ。

「…ありがと」
「……」

修造は何も言わず、私の手を取る。
温かい。

「…また作るね」
「おー」

今度作るときは何を入れようか。
そんなことを考えながら、修造と手をつないで、二人でゆっくり家までの道を歩いた。











愛情ひとつ
14.05.13





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