「ただいまー」
「ただいま」

辰也と二人、買い物から家に帰ってくる。
手を洗ってリビングのソファに腰掛けた。

「ふふ」
、ご機嫌だね」
「うん」

買い物途中のことを思い出す。
自然と頬がゆるんでしまう。

「氷室さん」

辰也のことをそう呼んでみると、辰也は全部理解したのか優しく笑う。

「なあに、氷室さん」

辰也はそう言って、私の頬にキスをする。
辰也はもちろん、私も今は「氷室さん」だ。

つい先日、私たちは結婚したばかりだ。

「『新婚さん?』だって」
「ふふ」

買い物に行った先のスーパーで、同じお漬け物を買おうとしたお婆さんにそう言われた。
新婚さん。
まさにその通り。

それがこんなにも、嬉しいなんて。

「辰也」


左手の薬指を見るたびに、辰也を隣に感じる度に嬉しくなる。
本当に、私は世界で一番の幸せ者だなあと思う。

「辰也」
「わっ」
「ふふ」

ぎゅっと辰也に抱き着く。
ああダメだ。今日はいつも以上に心が浮ついている。

「ほんとにね、辰也に会えてよかったなあって思うよ」

高校生のとき、初めて辰也に会って、辰也を好きになって、好きになってもらえて、
喧嘩したり、いろいろあったけど、こうやって一緒になって。

「辰也に会えなかったら、こんな幸せな気持ち、知らないままだったんだよね」

辰也のいない人生を想像すると怖くなる。
辰也に会ってつらいこともたくさんあったけど、それ以上の幸せや、満たされた気持ち、それを知らないまま、私は過ごしていたのかな。

、大丈夫だよ」
「?」

辰也は私の頭を撫でる。

「オレはね、もしあのときと出会えなかったとしても、きっといつかのことを見つけたよ」

辰也が優しく笑うから、胸の奥がきゅんとなる。
そんなの、私も、

「私もだよ」

「私だって、辰也のこと見つけたよ」
「うん」
「絶対ね」
「うん」
「だって、こんなに」

こんなに好きで。
思うだけで胸が苦しくなる。隣にいるだけで暖かい気持ちになれる。
そんな人を、見つけられないはずがない。

「あれだね」
「?」
「赤い糸で結ばれてるんだよ」

辰也は私の髪を撫でながら、優しい顔で話す。
赤い糸。ロマンチックな響きだ。

「だからどこにいたって会えるよ」
「うん」
「もし結ばれてなかったら、オレが無理矢理結ぶよ」
「やだ、怖い」
「怖い?」
「…ううん、嬉しい」

無理矢理でもなんでもいいよ。
辰也とつながっているなら、なんでも嬉しい。

「じゃあ、手出して」

私が手を出すより先に、辰也は私の左手を取る。
ドキドキ、する。

「…っ!」

いきなり小指を噛まれて驚く。
痛い。
小指に赤い痕がついた。

「え、な、なに!?」
「赤い糸」

「なんてね」なんておどけながら辰也は言う。
小指の、赤い糸だ。

「もー!」
「わっ」
「バカ」

笑いながらそう言う。
こんな、乱暴な赤い糸。
本当に、無理矢理結ばれてしまった。

「すぐ消えちゃうね」
「残念?」
「うん」
「じゃあ、何度だってつけてあげるよ」

辰也は私にキスをする。
唇と、そして、指。

傍から見たらくだらないやり取りかもしれない。
でも、こんな日々が、本当に幸せだよ。








「ただいまー」
「ただいま」

と二人、家に帰って、リビングのソファに腰掛けた。

「ふふ」
、ご機嫌だね」
はいつもよく笑うけど、今日は特別だ。
ご機嫌なのがよくわかる。

「うん」

は笑って返事をする。

「氷室さん」

にそう呼ばれて、がご機嫌な理由がわかった。

「なあに、氷室さん」

をそう呼んで、頬にキスをする。
はもう、じゃない。
氷室だ。

「『新婚さん?』だって」
「ふふ」

買い物に行った先のスーパーで、同じお漬け物を買おうとしたお婆さんにそう言われた。
オレももちろん嬉しかったけど、は想像以上に喜んでいたみたいだ。

「辰也」


付き合いたての頃は中々名前で呼んでくれなくてもどかしい思いをしたけど、今は「氷室さん」なんて響きが甘く聞こえる。
もオレも、同じ「氷室さん」だ。

「辰也」
「わっ」
「ふふ」

がぎゅっと抱き着いてくる。
の髪を優しく撫でた。

「ほんとにね、辰也に会えてよかったなあって思うよ」

は目を瞑って、噛み締めるようにゆっくり話す。

「辰也に会えなかったら、こんな幸せな気持ち、知らないままだったんだよね」

に会えなかったら。
そんな人生を、ふと想像する。

どうなっていたんだろう。
こんなに幸せな気持ちも、知らないままだったのかな。

いや、考えるだけ、無駄だな。

、大丈夫だよ」
「?」
「オレはね、もしあのときと出会えなかったとしても、きっといつかのことを見つけたよ」

の頭を撫でる。
こんなに好きなを、誰よりも輝いているを、見つけられないはずがない。

「私もだよ」

「私だって、辰也のこと見つけたよ」
「うん」
「絶対ね」
「うん」
「だって、こんなに、こんなに好きなんだもん」

はオレに抱き着いて笑う。
もきっと、オレのことを見つけてくれる。

「あれだね」
「?」
「赤い糸で結ばれてるんだよ。だからどこにいたって会えるよ」

運命なんて、あまり信じていないけど、とだったら信じたくなる。

「もし結ばれてなかったら、オレが無理矢理結ぶよ」

が他の男と赤い糸で繋がっていたら、切っちゃうな。
それでオレと結んでしまいたい。

「やだ、怖い」

はおかしそうに笑う。
自分でもちょっと病的かなとは思うけど。

「怖い?」
「…ううん、嬉しい」
「じゃあ、手出して」

の左手を取って、小指に軽く噛みついた。

「え、な、なに!?」

は驚いた顔をする。
まあ、当然だ。

「赤い糸、なんてね」

笑ってそう言ってみる。
小指の、赤い糸だ。

はオレの胸に顔を埋めた。

「もー!」
「わっ」
「バカ」

は笑いながらそう言う。
楽しそうな顔だ。

「すぐ消えちゃうね」
「残念?」
「うん」
「じゃあ、何度だってつけてあげるよ」

にキスをする。何度も、何度も。
これから先、ずっと一緒だ。
何があっても一緒にいようね。

そう言いながら、の指にキスをした。













赤い糸の指輪を君に
13.12.12

Je t'aime企画様へ!

今日はダブル氷室の日なので、氷室と氷室姓になったヒロインのお話



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