3月、卒業式。
今日は最後の日。
最後の日なんだから、今日ぐらい、素直になろう。
「ねえ、宮地どこにいるか知ってる?」
宮地と同じバスケ部の木村にそう聞いてみる。
あの身長に金髪ならすぐに見つかると思ったのに、まったく見当たらない。
「宮地?さっきまでいたんだけど…」
「そっか…」
帰った、なんてことはないだろうけど、少し不安になる。
いなかったら、どうしよう。
そう思っていると、ポケットに入れた携帯が震えた。
開けてみると、宮地からメール。
『ちょっと体育館裏来てくんね』
顔文字や絵文字のないシンプルなメール。
あいつらしいと思いつつ、『わかった』とメールを返し体育館裏へ向かった。
「宮地」
着いてみれば、宮地は相変わらずの不機嫌顔。
「おせーよ」
「勝手に呼び出して、何よ」
条件反射のように、ちょっとムッとした声を出してしまう。
違う違う。今日は素直になろうと決めたのだ。
三年間同じクラスだった宮地。
顔を合わせればいつもケンカばかりだった。
ケンカばかりだったけど、それは裏を返せばケンカしても一緒にいるということ。
本当は好きなのに、いつもケンカばかりしてしまって、三年間。
今日は最後なんだから、ちゃんと素直になろうと決めたのに。
「…何か用?」
「ん」
宮地はそっぽ向いたまま、私に拳を突き付ける。
「…なに?」
「受け取れっつーんだよ」
「?」
拳の中には何かものが入ってたのか…殴り合いでもしようと言われているのかと思った。
まあ、口の悪い宮地でも、女子と殴り合いなんてしないだろうけど。
そう思いつつ、宮地の拳の下に手のひらを出した。
私の手に落ちたのは、綺麗な金色のボタン。
「…これ」
「第二ボタンだよ」
「…!」
だ、第二ボタン!?
学ランの第二ボタンって、それは、
「え、なんで」
「…いらねーなら返せ」
「い、いらないなんて言ってないじゃん!」
そう言って手を引っ込める。
卒業式に第二ボタンをくれるってことがどういうことなのかわからないほど、バカじゃない。
「…本当にいるのか?」
「え?な、なに、くれるんじゃないの?」
ここまで来て「やっぱり渡すのやめた」とかないよね!?
あったらさすがに殴るよ!?
「いや、そうじゃなくて…なんつーだ、その」
「…何よ、はっきり言いなさいよ」
「…オレのでいいのかよ。その…ほかのやつのとか、いらねーの?」
ああ、なんだ、そういうこと。
「…いらないよ、その、私が欲しいのは、宮地のだけだから」
恥ずかしさを堪えて、必死に心の内を話す。
宮地のほうをちら、と見れば、宮地の顔も少し赤くなっている。
「…宮地こそ、私にくれちゃっていいの?ずっとケンカばっかりしてきたのに…」
「…バーカ」
「なっ!」
「ずっとケンカっつーことは、ずっと一緒にいたからだろ。なんとも思ってねーやつと、一緒にいるかよ」
宮地は視線だけ外して、顔を赤らめながらそう言う。
私とまったく同じことを思っていてくれていたのだと思うと、胸が熱くなる。
堪えきれなくなって、私の目から涙が溢れた。
「なっ、なんで泣いてんだよ!」
「だって…」
「…っ」
ぼんやり見える宮地の顔は戸惑っている。
宮地の腕が私の顔に近付いて、心臓が跳ねた。
「…いひゃいいひゃい!」
何をしてくるかと思ったら、宮地は私の頬をつねってきた。
な、なんで!?
「な、なんなのよいきなり!」
「…なんとなく」
「何となくでふつう泣いてる女の子のほっぺつねる!?」
「お前がひでー顔してるからだろ」
「そんな顔にさせたのはあんたでしょうが!」
そう叫んで、私も手を伸ばして宮地の頬を思いっきりつねってやった。
私の目に溜まっていた涙はあっという間になくなってしまった。
「いってー!!」
「はっ、やり返してやったのよ!」
「おま…、オレここまで強くやってねーぞ!?」
「ふん!」
ぷいとそっぽを向いてみせれば、横目で宮地が不機嫌な顔になるのが見えた。
…あれ、私、今日は素直になろうと思ったんじゃなかったっけ…。
いや、まあ、少しはなったといえばなったけど、なんか違う…。
なんでまたふつうにケンカしてるんだ…。
「…あの、宮地」
「…なんだよ」
「…あんた、第二ボタンくれたじゃない」
「…おう」
「で、私、受け取ったでしょ」
「…おう」
「…なんで私たちケンカしてるの」
「……」
そう言ってみると、宮地もバツが悪そうな顔をする。
別にイチャイチャしようとは言わないけど、なんていうの、こう、もうちょっと色っぽい雰囲気になってもいいんじゃないか。
何が悲しくて頬のつねり合いしているんだ。
「…一回しか言わねーぞ」
「…うん」
宮地は頬を赤くして、今度はまっすぐ私を見る。
だから、私も宮地をまっすぐ見て、次の言葉を待った。
「…好きだ」
その言葉を聞いて、私の目からまた涙が出そうになる。
泣いたらきっとまたつねられる。ぐっと涙を堪えた。
「…お前は」
「え?」
「『え?』じゃねーよ。まさか人に言わせて『はいおしまい』ってつもりじゃねーだろーな」
「え、ええ…」
いや、まあ、その通りなんだけど。
やっぱりいざ言うとなると恥ずかしい。
「…言えよ」
「う、うん」
でも、今日は素直になると決めたのだ。
「あの、ね」
「……」
「…えっと…」
「……」
「……」
「……」
「……」
「…早くしろよ」
「え、っと…」
恥ずかしいから宮地から視線を逸らして話したいけど、宮地がそれをさせない。
宮地が頬を赤らめながら、まっすぐ私を見るから。
「すき、だよ」
必死になってそう言えば、宮地は一瞬だけ頬を緩めた。
う、わ。
その顔を見て、私は無理矢理宮地から視線を外してうつむいた。
「…おい」
「…っ」
「顔上げろ」
「でも」
「……」
また宮地の手が伸びてきて、構える前に、私の頬をつかむ。
「いひゃい!」
「…っ、うるせー!」
「なにすんのよ!」
私もまた手を伸ばして宮地の頬を思いっきりつねる。
「いってえ!」
「お返し!」
「てめえ!」
「…お前ら何やってんだ?」
熱くなってつねり合いをする私たちの間に冷静な声が割って入る。
振り向くと、そこには木村が。
「…何って、つねり合い…?」
「…お前ら、卒業式でも相変わらずだな…」
木村は呆れたような溜め息を漏らす。
…でも、まあ、こういう「相変わらず」なほうが、心地いいかもしれない。
「つーかお前らほっぺ赤くね?」
木村の指摘にまた頬が少し紅潮する。
そりゃ、だって、
「…そりゃ、つねってたからな」
「お前らどんだけ長い間つねり合いしてたんだ」
宮地の言葉に、思わず小さく吹き出してしまう。
赤くなった理由は、私も宮地も、それだけじゃないのに。
「…笑ってんじゃねーよ」
「いたっ」
宮地は私の頭を軽く小突いた。
…うん、やっぱりこういうふうなのが落ち着く。
今日で終わりじゃなく、これからも、こんなふうに一緒に過ごしたい。
赤くなった頬を誤魔化す方法
13.03.12
友人のリクエストでケンカップル宮地
私も宮地はケンカップルが萌えます!
女の子が泣いたときどうしたらいいかわからなくて思わずつねっちゃう宮地萌え…
もちろん本気でつねってないですよ
感想もらえるとやる気出ます!
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