「なんかさあ、宮地って私に対して冷たくない?」
「そうっスか?」

部活が始まる前、すでに体育館に来ていた高尾にそう聞いてみる。

「ほかのマネージャーには優しくない?」
「んー、まあ…そう言われればそうっスけど」
「でしょ!?この間だってね!」

この間、部活終了後、片付けをしていたときのことだ。

「おい、。ゴミついてんぞ」
「え、あっ」
「ほら」

そう言って宮地が頭に付いたゴミを取ってくれた。
ここまでなら問題ない。
感謝こそすれ、怒ったりはしなかった。

だけど、これには続きがある。

「…女のくせに、ゴミついてんのも気付かねえのかよ…」

と、盛大なため息とともに言ってきたのだ。


「仕方なくない!?あの日倉庫から普段使わない用具出したし!部活中は鏡見る余裕なんてないし!」
「ま、まあそうっスね…」

高尾は汗を垂らしながら同意してくれる。
宮地は私に対してやたら冷たい。ムカつくほどに!
あのときだって、私以外にゴミがついてたら最後の一言は絶対になかったはずだ!

「カレーにヨーグルト入れるって言ったら『お前頭おかしいんじゃねーの』とか言ってくるし」
「あー…」
「木村がコーヒー入れるって言ったら『あー家によっていろいろあるよな』って流したくせに!」

宮地は基本誰に対してもぶっきらぼうだ。
なのに、私に対しては冷たいというかやたら文句言ってくるというか!

「まー、確かに冷たいっスけど、嫌いってわけじゃないと思いますよ〜」

高尾はへらっとした笑顔で言ってくる。
…別に、そういうことを気にしてるんじゃなくて…。

「なんなら聞いてみたらどうっスか?なんか理由あるかもしれないし」
「理由って…」
「おいお前ら、練習始まるぞ」
「あ、はーい!んじゃ先輩、今日もよろしくっス」

大坪の言葉で高尾は整列しに行く。
…理由なんて、あるんだろうか。






「お疲れ様でーす」
「お疲れー」
「あれ、先輩まだ帰らないんですか?」

部活後、みんなが着替え終わった中私は一人腕まくりをしてもう一度体育館へ向かう。

「ちょっと体育倉庫の整理してくるよ」
「手伝いますよ!」
「ダメ。テスト前だから居残り禁止でしょ」
「う…じゃあ先輩もほどほどに」
「うん。お疲れ様ー」

今はテスト前期間だ。
この期間は居残り練習禁止だから、片付けをするには持って来い。
自慢じゃないけど成績は優秀なほうなので、居残りしても問題ない。

「よし」

この間ここから用具出したらゴミ頭に付けて宮地にバカにされたから、次からバカにされないようにしよう。
そう気合を入れる。






「……?」

掃除を進めていると、体育館のほうから物音がする。
別に怖い話の類じゃなくて、しょっちゅう聞いてる音。
バスケをするときの音だ。

「…宮地」

そこにいるのは、案の定宮地だ。
宮地も成績優秀だから、テスト期間でも居残り練習が許可されている。

「……」

しばし彼の練習風景を見つめる。
宮地は真面目だ。こうやってよく一人居残り練習をしている。
周りに厳しく、自分に厳しく。
ぶっきらぼうだけど、なんだかんだで、優しい。
そんな彼を、私は、

「……バーカ」

それなのに宮地はやたら私に冷たい。
いつも態度に出さないようにしてるけど、つらい。
…高尾の言う通り、理由があるとしたら、私にとって一番悲しいことしか思いつかない。
だって、ほかの人にはぶっきらぼうながら優しくて、私にだけ、冷たいなんて、そんなの、

「あ」

宮地がこちらを向く。
どうやら私に気付いたようだ。

「覗いてんなよ、悪趣味」
「失礼ね。ここ掃除してたのよ」
「ああ…だからか。またゴミついてっぞ」
「え?」

慌てて頭を抑える。
どこ!?

「そこじゃねー」

宮地は私に近付くと、頭に付いたゴミを取ってくれる。

「少しは気遣えよな」

その言葉にむっとした私は、つい反抗的な口調で返す。

「しょうがないでしょ、掃除してたんだから」
「前もついてただろ」
「あのときついてたからここ掃除しようと思ったんじゃない」

反抗的な口調で返せば、宮地も同じ口調で返す。
いつも、こんな感じだ。

「…何よ」
「あ?」
「私にばっかり冷たくして」

宮地は少し驚いた顔をする。

「他の子には、口悪くても変なこと言ったりしないじゃない。私だけ同じこと言っても、冷たい言い方ばっかして」
「べ、別にんなこと」
「あるじゃない!」

声が震える。
高尾はああ言ってたけど、理由なんてないだろう。
あるとしたら、一つだけ。

「な…っ」
「…っ」
「…な、泣くなよ!」
「え…」

宮地にそう言われて頬を触ると、涙が流れてる。

「し、仕方ないじゃない」

好きな人に、自分だけ冷たい態度取られたら泣きたくもなる。
今まで溜め込んでたものが、一気に溢れ出した。

「私にばっかり冷たいし、文句ばっかりだし、ほかの子にはぶっきらぼうでも、優しいこと言ったりするのに」
「だ、だからんなことねーって!」
「あるじゃない!」

一度流れると涙は止め処ない。
ボロボロと溢れてくる。

「どうせ、私のこと、」

零れる涙を拭わないまま、感情的な声で言う。

「私のこと、嫌いなんでしょ」

言ってしまった。
少しの後悔が胸をよぎる。

「ち、ちげーよ!」
「っ!」

宮地は私の腕を力強く掴む。

「そうじゃねえ!逆だボケ!」
「ぎゃ、逆?」

宮地は真剣な表情で、必死な声で叫ぶ。

「…嫌いじゃなくて、なんだ、その」
「?」

宮地は顔を赤くして、目を泳がせてる。
いつもははっきり言うのに、今は妙にしどろもどろだ。

「な、なに?」
「…だから、好きなんだよ!」

宮地はまっすぐ私を見て、そう言い放つ。

「…え?」
「…その、好きだから、ついつい思ってることと正反対なこと言っちまうつーか…」
「う、嘘」
「嘘じゃねーよ!」

嘘だ。
だって、嫌われてると思ったのに。
それなのに、好き、なんて。

「…悪かったよ、そこまで傷付けてると思わなくて」
「あ、宮地…」
「…悪かった」

宮地は下を向いてしまう。
私は宮地の服の袖を掴んだ。

「み、宮地、私…」

私もちゃんと、言わなくちゃ。
そう思って口を開くと、宮地は突然顔を上げた。

「…?」
「ちょっと待て」

そう言うと、静かな足取りで体育館の入り口のほうへ向かう。
そうすると、突然体育館の扉を開けた。

「ぎゃっ!!」
「!!」

そこには、扉に寄りかかっていたらしい高尾がいた。
え、い、いつから…!?

「…おい、お前盗み聞きとはいい度胸じゃねーか」
「あ、いやこれには深いわけが」
「うるせえ殺すぞ!!」
「うわっ、ちょ、ちょっと待って!先輩助けて!」
「…助けると思う?」
「わーーーー!ちょっとマジタイム!!!ほんと忘れ物してたまたま…!」

いつもの光景に、さっきまでの緊張が解けてふっと笑いが零れた。
宮地と高尾の追いかけっこが始まった。
私が気持ちを伝えるのは、これが終わった後になりそうだ。









天邪鬼の恋
14.05.27







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