十月。秋田にも冬が近づいてきた。そろそろ辰也が泣き言を言い始める時季だろう。
部活の朝練のため、朝早くからまだ人もまばらな通学路を歩く。時折吹く風が冷たい。



冷たい風に身を縮こまらせていると、後ろから聞き慣れた声が聞こえる。
間違いない。辰也だ。

「辰也、おはよう」
「おはよ」

振り返るとそこにはやはり辰也がいる。寒さで縮まっていた体が溶けていく。

「……くしゅっ」

……と思ったけれど、心が温まったところで体は暖まってくれない。首筋に冷たい空気が触れて、くしゃみが出てしまった。

、大丈夫? 寒いよね」
「ん……二、三日でぐっと寒くなったね」

秋田生まれの秋田育ち、冬支度は早い方だけれど今年はずっと暑い日が続いていたからつい今年は遅くなってしまった。
気温より薄着になってしまったし、それに体の方もまだ冬に慣れていないようだ。

、ほら」

辰也は自分がつけていたマフラーを外すと、私の首へ巻いてみせる。首筋に暖かい毛糸が触れてくすぐったくて、暖かい。

「辰也が寒くなっちゃうよ」
「オレはいいよ。ほら」

辰也は笑顔で首を横に振ると、私の肩に腕を回して自分の方へと抱き寄せる。

「こうすれば暖かいから」

そう言った辰也はキラキラした満面の笑みで、強がりなんて一ミリもなさそうだ。
寒いのが嫌いなはずなのに、くっつくのが本当に暖かいと思ってくれているようだ。

「……私だって暖かいよ?」
「でもくしゃみしてただろ?」
「……ん。ありがとう」

先ほどのくしゃみを持ち出されては仕方ない。わたしは大人しく辰也の言うことを聞くことにした。
マフラーも、触れた腕も、全部暖かいよ。





温め合う日
2019.10.30


ハッピーバースデー!









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