「ふう…」
合宿2日目。今日の練習も無事終了。
秀徳一軍は昔から同じ場所で合宿するのが伝統になっているらしいけど、まさかそこにインターハイ予選で戦った誠凛までいるとは。
一緒に練習したりもして、慌ただしい一日が終わったところだ。
階段を下りてお風呂へ向かう。
中学からマネージャー業はやっていたけど、合宿というのはやっぱり疲れるものだ。
「わっ!」
考え事をしながら歩いていたら、階段を踏み外してしまう。
まずい、落ちる、
「あぶねえ!」
後ろから聞こえてきた声に驚く間もなく、右腕が掴まれた。
強い力で引っ張られて、私は落ちずに済んだ。
「え、あ」
「おい、大丈夫か?」
「あ…」
振り向くとそこにいたのは火神くんだ。
「火神くん、ありがとう」
「?オレの名前知ってんのか?」
「知らないわけないよ」
試合中、あれだけ活躍していた火神くんを覚えていないはずがない。
まあ、火神くんは私を知らないだろうけど。
「あ、わり!」
「え?」
火神くんは慌てた様子で私の腕を掴んでいた手を離す。
どうしたんだろう。
「や、痛かっただろ」
「え?」
「その、腕。オレ、やたら力つえーから」
そう言われて思わず吹き出す。
まさか、そんなことを言いだすなんて。
「大丈夫だよ、そんなの」
「でも」
…火神くんって、見た目のイメージだけだと、大変申し訳ないけど野蛮そうというか、なんだかそんなイメージだったけど。
話してみると全然違う。随分優しい人だ。
「ふふ」
「…っ」
少し笑うと、火神くんは驚いた顔してぷいと横を向いてしまう。
あれ、どうしたんだろう。
「火神くん?」
「あ、いや、なんでも…」
「?そういえば、ずいぶん汗かいてるけど大丈夫?」
「あ、ああ、さっきまで走ってたから」
「え?もしかして、ずっと?」
「ああ、カントクに言われて」
合同練習のとき、火神くんずっといなかったけど、それからずっと…?
「大変だったでしょ?何か飲む?」
「あ、いや…飲み物も走ってるときにたくさん買ってあっから」
「そうなの?」
「おお。んじゃ、その、オレ風呂行くから」
「あ、私も」
「え!?」
「?私も今お風呂行く途中だったの」
「あ、そ、そっか、そうだよな」
少し慌てた様子の火神くんの隣を歩く。
男女別れるところで、もう一度火神くんにお礼を言った。
「助けてくれて、ありがとう」
「別にいーって」
火神くんは少し照れた様子でお風呂場に入っていった。
…あ、そうだ。
*
「さん、どうしたんですか?」
「あ、黒子くん」
次の日の練習の合間、きょろきょろ体育館を見渡していたら中学時代の同級生の黒子くんが話しかけてきた。
「きょろきょろして、捜し物ですか?」
「うん…火神くん知らない?」
「火神君?」
「うん。昨日ね、階段から落ちそうになったの助けてもらって。だからお礼を…」
昨日のお風呂の後、旅館の台所を借りてクッキーを焼いてみた。
火神くんへのお礼だ。
「そうなんですか。ケガはありませんか?」
「うん。大丈夫です」
「ならよかったです。火神君は外で走ってますよ」
「え?今日も?」
「はい」
「そっか…」
今日もずっと体育館にいないなあと思っていたらそういうことか…。
しょうがない。夜渡そう。
「あ、でもそろそろいったん帰ってくる頃だと思いますよ」
「そうなの?」
「コンビニまで往復走ってるんですよ。さっき出発した時間を考えれば、そろそろ…。あ、ほら」
そう言われて体育館の窓から外を覗くと、火神くんが走ってくるのが見える。
「早くしないと火神君行っちゃいますし、休憩も終わっちゃいますよ」
「あ、うん。ありがとう!」
そう言って体育館を走って出た。
*
「火神くん!」
「あ」
火神くんはちょうど出発しようとしているところだ。
慌てて呼び止める。
「あ、えーと…」
「?」
「いや、そういや名前知らねーなと思って」
「あ、そっか。っていうの」
そう言えば名乗っていなかった。
私は火神くんのこと知っているものだから、つい…。
「どうしたんだ?」
「あのね、これ昨日のお礼に」
そう言ってクッキーの包みを差し出したところで気が付く。
今渡したら、確実に邪魔だ。
「あ、ご、ごめん」
「え?」
「今渡したら邪魔だよね」
「あ、いや!」
火神くんは引っ込めようとした私の手を慌てて掴む。
「大丈夫!もらう!」
「あ、」
火神くんはそう言って、クッキーをポケットに突っ込んだ。
なんだか、触れた手が、熱い。
「…サンキュ」
「ううん。こっちこそ、昨日はありがとう」
「…いや、別に」
「……」
なんだか顔も熱い。どうしたんだろう。
「あ、えーと…」
「……」
「えっと…オレ、また走ってくっから」
「あ、そ、そっか。頑張ってね」
「おう。もな」
そう言って火神くんを見送る。
なんだろう、なんか。
「さん」
「わっ!?…あ、黒子くん」
「遅いので様子を見に来ました。もう休憩終わりますよ」
「あ、そ、そっか」
そう言われ黒子くんと一緒に体育館へ歩き出す。
熱い頬を抑えていると、黒子くんが少し笑う。
「さん、火神君はいい人ですよ。優しいですし」
「え?」
「頑張ってください」
???
頑張ってって、なにを…。
「え、ど、どういうこと?」
「…鈍い人同士だと大変そうですね」
「?」
熱い手
13.09.23
Juneさんリクエストの火神でした〜
Juneさんありがとうございました!
多分この後は黒子くんがいろいろ頑張ってくれることでしょう
火神の手は熱そうですね
感想もらえるとやる気出ます!
|