涼太とケンカした。
原因はやつの女関係である。

別に浮気したとかそんなたいそうな話ではない。
やつが仕事関係の人に誘われて合コンに行ったのである。

「…あーっ、もう!」

涼太の部屋から帰ってきて、自分のベッドに鞄を投げつける。
イライラしてしまって仕方ない。

涼太が仕事関係の都合で飲み会という名の合コンに誘われることがよくあるのはわかっている。
仕事の関係上そう言った誘いが断りにくということも。
だからと言って、私に内緒で合コンに行くのは許せない。
せめて事前に一言あってもいいと思うのだ。

はあ、と大きくため息を吐くと、鞄の中の携帯が震えた。
表示を見てみると涼太からのラインだ。
私は中身を見ずに携帯を枕に放り投げた。

明日は日曜日、ふて寝してやる。
そう思い、とっととメイクを落とし私はベッドにダイブした。





「ん…」

次の日。
朝…というより昼起きると、携帯の着信を示すランプが光っている。
恐らく涼太だろう。

「げ…っ」

電話の着信5件、ラインのメッセージ12件。
全部涼太からだ。
まあ、涼太からしたらかなり遠慮したほうだとは思うけど。

「……」

ラインのメッセージを見てみると、基本的に「ごめん」と「ちゃんと話をしたい」の二つで構成されている。
スタンプは現状なし。
普段はスタンプ使いまくりの涼太が押してこないということは、本当に反省しているということだろう。

確かにこのまま無視をしていても始まらない。
私は涼太に電話を掛けることにした。

着信履歴から涼太の番号に掛ける。
それと同時に、涼太は電話に出た。

『もしもし、っち!?』
「はや」
『よかったー!もうオレこのまま無視され続けて関係終わるんじゃないかって』
「うるさい」

相変わらずよくしゃべる。
この明るさに惹かれて付き合い始めたけど、こういうときはイラッとくる。

『あああごめんっス…』
「うん」
『今回のことは本当オレが全面的に悪かった。ので、ちゃんと話がしたいと思って連絡しました!』
「悪いと思ってるんだ」
『そりゃあもう…そういうときはちゃんと連絡するって約束したのに破ったのオレだし』

涼太に謝罪の意思があるなら話し合いをすることはやぶさかではない。
今回の件は本当に怒っているのだけど、きちんと話さなければ前には進まないのだから。

『今日大丈夫っスか?ちょっと話したいんスけど』
「ん、いいよ。喫茶店とかでいいなら」
『オッケーっス!じゃあいつものとこでいいっスか?』
「うん。じゃあ一時間後ね」

そう言って電話を切った。
涼太の指定した喫茶店はうちから近い。
今から準備をする時間を考えても一時間あれば余裕がある。






「涼太」

一時間後、喫茶店に着くと涼太はすでに奥の席に座っていた。

っち!」
「ごめん遅くなった?」
「いや、大丈夫っス」

そう言って涼太の前の席に座る。
注文を聞きに来た店員さんに、ブレンドを頼んで涼太を真っ直ぐに見やる。

「で」
「この度は本当に申し訳ありませんでした!」

涼太は机に額を当てるような勢いで頭を下げる。
というか、今ごつんと当たった。

「…言い訳はなし?」
「えーっと…敢えて言うなら」
「うん」
「普通に飲み会だよ〜って誘われて行ってみたら合コンだった?みたいな?」
「……」
「あ、本当っスよ!?合コンってわかった時点で帰りたかったんスけど、先輩の手前できないし」
「…そう」

涼太のいうことは本当なのだろう。
涼太のこの見た目、「黄瀬涼太が合コンに来る」となればいい釣り餌になるだろうし、行く前ならまだしも、現地に着いて先輩がいる状態で帰宅というのは無理だろう。

「でね!オレは考えたんス!」
「なにを?」
「もう合コンに誘われなくなる方法を!」

涼太はそれはもうキラキラした表情で私を見つめてくる。
涼太は学生時代からイマイチ頭が足りない。
その涼太の案とは、なんだろうか。

っち!オレと結婚してほしいっス!」

案を聞こうじゃないか、そう思って涼太の言葉を待っていたら、彼から出てきた言葉はそれだった。

「……は?」

思わず素っ頓狂な声を出してしまう。
何を言っているんだ、こいつは。

「『は?』ってひどいっス!こういうときは感動で泣いたりするもんじゃないんスか!?」
「いや、だってさっきの話を文脈繋がってないじゃない」

さっきまでしていた話は、「どうしたら合コンに誘われなくなるか」だった。
それがどうしていきなり「結婚しよう」という話になるんだ。

「いや、だってね!いくら「彼女いるから」って合コンの誘い断っても「どうせ遊びの彼女でしょ?」って言われるんすよ!そうじゃないって言ってるのに!」

涼太は私の肩を掴まんばかりの勢いでそう言ってくる。
確かに、涼太は見た目チャラいけど高校から今まで付き合ってきて浮気したこともなく私に一途でいてくれている。
彼が決して遊びで私と付き合っているわけではないこと、それは十分に分かっている。

「だからね!結婚すればそんなこと言われることもないと思うんスよ!」
「……」
「本当はもっとこう…ロマンチックにプロポーズしたかったけど、っちにこんな悲しい思いさせるならもう一刻を争うかと思って!」

涼太の目は真剣そのものだ。
冗談で言っているとは思えない。

「…本気?」
「本気っス!オレ、結婚するなら絶対っちって思ってたし!」

涼太は真っ直ぐな目で私を見てくる。
いつもはちゃらちゃらしているくせに、いや、しているからこそか。

「…涼太」
「うぃっす」
「飲み会はいいよ、付き合いとかもあるだろうし。でもね飲み会が入ったら、絶対連絡すること。それだけ絶対、守って」

ぎゅっと涼太の手を握って、そう言った。
真剣だった涼太の顔は、だらしなく緩む。

「そ、それって」
「…こちらこそよろしくって、意味」
「やったー!」

涼太は身を乗り出して私に抱き付いてくる。
ここは喫茶店だというのに。

「ちょ、ちょっと涼太!」
「絶対絶対、幸せにするっス!」

涼太はもう私の言葉など聞いていない。
でも、子犬のように喜ぶ彼を見たら、少し恥ずかしいぐらいいかと思ってしまうあたり、私は彼に甘いのだ。









ぼくと結婚してください
15.09.16

夏用さんリクエストの黄瀬でした〜!ありがとうございました!


感想もらえるとやる気出ます!