春休みだろうと冬休みだろうとなんだろうと強豪である野球部は欠かさず練習している。 もちろんこの暑い暑い夏休みでも当たり前だ。 そんな私は帰宅部なので夏休みはのんびり過ごしているけれど、幼馴染の高瀬準太はその野球部に入っているため毎日忙しそうにしている。 「あれ、?」 「あ、準太、おかえりー」 この間家族で行った旅行のおみやげを渡そうと準太の家に行くと、玄関先でちょうど部活帰りの準太に遭遇した。 準太の額には汗が滲んでいる。 歩いているだけで汗ばむ季節、激しい運動をした後となればそりゃ汗だくで帰ってきたっておかしくない。 「準太はえらいねえ…」 「は?」 「だってさ、こんな暑い中真面目に部活やって」 「別にえらいってわけじゃ…」 「いやいや、私はもうこの暑い中でちょっと運動しただけで動けなくなっちゃうもん。準太若いなー」 「いや、同い年だろ…」 準太は靴を脱ぎながら私の発言に突っ込みを入れる。 その横で私も自分の靴を脱いで、二人一緒に居間へと向かう。 高校生にもなれば幼馴染といえど距離が開くのかもしれないけど、私たちは特にそんなこともなく、こんな光景はしょっちゅうだ。 「これ、この間の旅行のお土産ね」 「ああ、毎年サンキュ」 「いえいえ、どういたしまして」 私の家は夏休みになると毎年家族でどこかへ旅行に行く。 そのお土産を高瀬家に渡すのも、毎年のこと。 「今年はおまんじゅうですよ」 「お、うまそう」 準太は早速包みを開けておまんじゅうを一つ口に入れた。 そんなにお腹空いていたのね。 「準太は旅行行かないの?」 「あー、部活あるからなあ」 「そっかあ。じゃあ準太と一緒に旅行は行けないねえ…」 私がそう言うと準太はおまんじゅうを喉に詰まらせてむせてしまった。 「ちょ、大丈夫?」 「いや、大丈夫っつーか、おま、旅行って」 「え?ああ。だって小さい頃はうちと準太ん家で一緒に旅行行ってたじゃん。もうああいうのできないんだなーって」 「…ああ、そういうこと…」 「紛らわしい言い方すんなよ…」と準太は呟きながら水を飲んでいる。 「まあ、前みたいなのは無理だろうな。 俺の部活があるうちは絶対無理だし、それ以上になったらさすがに家族旅行っつーのも変な話だろ」 「そうだね…」 確かに、準太の言う通りだ。 準太の部活がなくなったら…というと早くても高三になってだし、そのときは受験だなんだで忙しいだろうし。 ましてや大学生になったら、私はともかく男の子が家族旅行とか、あんまりしないだろうし。 私と準太、というより家の準太の家の関係は昔から変わらないと思ってたし、変わらない部分だってあるけど、やっぱり変わってしまったところもあるんだなあ。 それはしょうがないことだけど、寂しいと思う気持ちがどうしても強い。 「…前みたいに行かないなら、じゃあ、二人で行くとか」 「はあ!?」 準太はそう声をあげるとさっきと同じようにむせる。 「冗談だよじょーだん!」 「…お前、んなことばっか言ってると本気で襲うぞ」 「あははっ」 本当は冗談じゃないんだけど、今はまだ冗談めいて言わないと恥ずかしいから冗談てことにしておこう。 この関係が変わらないことを望んでる。そのはずなのに、この関係が変わることも望んでる。 ああ、なんていうか、矛盾してるなあ、私。 とりあえず、しばらくはこうやってお土産話で盛り上がったりすることは、できるよね? 変わるもの、変わらないもの 09.09.03 (それにしても、冗談とはいえあんなに慌ててくれるってことは、少しは期待しちゃうじゃないですか、準太くん) (あーもう、こっちは冗談とは受け取れないんだよ、わかれよばか) キリリク98989の矢坂さんへ! リクエストありがとうございました! |