「…ん」
「起きて、朝だよ」
辰也の声が聞こえる。
ああ、そうか。朝なんだ。
意識を覚醒させて、目を開ける。
ベッドの中から見える時計の針は6時半を指している。
「コーヒー飲む?」
「ん…ありがと」
起き上がって目をこする。
辰也が朝ごはんを用意してくれているようだ。
辰也と結婚して結婚して二週間が経った。
どちらが朝ごはんを作るかはあまり決まっていない。
先に起きたほうが作ることが多いけど、一緒に起きたときはその場の流れだ。
これからもそうかもしれないし、もう少しこの生活に慣れたら決めるかもしれない。
決めたとしても、子供が出来たら変わるかもしれない。
今はこの、少し不安定な生活が楽しい。
なんだか「今だけ」の時間のような気がして。
とりあえず私は顔を洗おう。
そう思って立ち上がって、ヘアバンドを手に取る。
「あ、待って」
「ん?」
「まだしてない」
辰也は私のほうに駆け寄ると、顔を近づける。
そのまま吸い込まれるようにキスをした。
「おはよう」
「おはよ」
辰也が焼いてくれたトーストをテーブルに置く。
今のところ朝ごはんは大体パンだ。
トーストで食パンを焼いて、ジャムかマーガリンを塗って食べる。
飲み物はミルクかコーヒー。
朝は忙しいし、凝ったものよりこういったシンプルなものにしている。
「ごちそうさま」
朝ごはんを食べ終え、辰也と自分の分のお弁当を作り始める。
今日朝ごはんを作ったのは辰也だけど、お弁当は毎日私が作っている。
先日辰也もお弁当を作ってみたけど、どうにもお弁当箱に詰める分だけ作るというのが苦手だと言っていた。
どんぶり勘定な辰也らしい。
「よし、できた」
ほとんど冷凍食品ではあるけど、無事お弁当の完成だ。
辰也のほうが早く出るから、手早く辰也のお弁当を包みに入れた。
「辰也、もう出る?」
「うん」
辰也はスーツに身を包む。
もう何度も何度も見てるのに、かっこいいなあと思ってしまう。
私の旦那さんは、世界で一番素敵な人だ。
他の人に言うと呆れられるだけだから、これは辰也にしか言わない。
私の一番の自慢だ。
「あ、待って」
辰也のネクタイが歪んでいる。
彼の前に駆け寄って、歪んだネクタイを直す。
「…はい、できた」
「いいね」
「?」
「新婚さんって感じ」
辰也は嬉しそうな顔で笑う。
私も同じことを思っていた。
「新婚さんだもんね」
「うん…行くのが惜しくなるな」
「ふふ」
私も行ってほしくないなんて思ってしまうけど、まさか引き留めるわけにもいかない。
「じゃあ、行ってくるから」
「うん」
辰也にお弁当を渡して、キスをする。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
*
時計の針が7時を指す。
そろそろ辰也が帰ってくる時間だ。
大体帰りは辰也より私のほうが早い。
いつも夕飯は私が作って待っている。
「あ、帰ってきた!」
玄関から鍵を開ける音がする。
鍋の火を止めて玄関へ向かった。
「ただいま」
「おかえりなさい!」
玄関で辰也を出迎えて、キスをする。
そうしたら、辰也はぎゅっと私を抱きしめてきた。
「辰也?」
「ん、充電完了」
もう一度キスをする。
幸せが染み渡っていく。
「いい匂い。ご飯なに?」
「肉じゃが」
「やった」
「ふふ。もうちょっと待ってね」
「うん。あ、明日は休みだしオレが作るから」
部屋に入りながらそんな話をする。
金曜の夜は長い。
昼間離れていた分、一緒にいようね。
*
ベッドに座って、今日買った雑誌を読む。
可愛いな、と思う服はなかなか値段が張る。
「どうしたの?難しい顔して」
お風呂から上がった辰也が私の隣に座る。
「ん、別に」
「そう?」
雑誌を閉じて、辰也に寄りかかる。
お風呂上がりの匂いがする。
同じシャンプーやボディソープを使っているから、私と同じ匂いだ。
「ふふ」
「?」
「一緒に暮らすのって、いいね」
毎日同じベッドで起きて、同じものを食べて、同じ匂いになって、同じベッドで眠りにつく。
二人別々の人間のはずなのに、一つになっているかのような錯覚を覚える。
「辰也と私、同じ人間みたい」
辰也の手と自分の手を絡める。
触れ合っているところから、幸せが染み込んでいく。
「ん…」
辰也は私をぎゅっと抱きしめて、キスをする。
たくさんくっつくと、それだけ幸せになる。
「本当に一つになる?」
「もう」
一緒にベッドに横になる。
もう一度キスをして、抱きしめあって、一つになる。
おやすみは、まだもう少し先。
おはようのキス・いってきますのキス・おかえりのキス・おやすみのキス
14.11.01
2014年の氷室祭り期間中の拍手ログです
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