なーんで女ってこんなお金掛かるんだろう、面倒だな、と薬局で必要なものをどかどか買い物カゴに入れながら思った。とりあえずこれだけかな、と中を確認してレジに向かう。そしたら、途中の棚の前に見知った顔がいるのに気がついた。クラスメイトの水谷だ。「水谷、何やってんの?」と言おうとしたけど何や、まで言って水谷が持ってるものを見て、そこで止まってしまった。

「わっ、!?」
「…水谷、それ使うの?」

水谷が持ってるのはあれだ、うん、あれだよ、あれ。男が薬局で買うもので、声を掛けるのをためらうのなんてあれくらいなもんだろう。あれですよ、あれ。わかるでしょ、あれ。
慌てふためく水谷。人間ってこんな慌て方するんだって感じ。まるで漫画みたいに慌ててる。そんな慌てられたらこっちは慌てらんないじゃん。なんか私のほうが落ち着いてきたぞ。

「…水谷って彼女いないよね?」
「いや、うん、まあ、いないけどさ、でもさ、いつか突然使うときが来るかもしんないじゃん!」
「え、突然使うの?」
「だって人生何があるかわかんないし!」

きらきら瞳を輝かせながら、水谷はぐっと拳に力を込める。箱潰れるよ?と言おうとしたけどすでに少し潰れてるのでもういいや、と思って言うのはやめた。これもう買うしかないんだろうな。

「何があるかわかんなくてもさー、彼女いないんだったらいらなくない?」
「え?何で?」
「だって水谷はさ、彼女でもない子といきなりそういうことするの?」
「え、あ…。うーん…でもいきなり彼女ができていきなりそういうことになるかもしれない!」
「えー、そこはちゃんと段階踏もうよ」
「えーでもさー…。…あ、はいきなりそういうことするの嫌なの?」

今までの力説っぷりとは打って変わって弱気な声で聞いてきた。ふわふわした茶色い髪の毛からみょうに可愛い目が覗いてる。

「そりゃ、やだよ。ちゃんと告白するかされるかして、デートして、手繋いで、キスして、それからでしょ、そういうのは」
「…よし、わかった!」

何がわかったんだか、水谷は少し潰れた箱を棚に戻した。いや、潰れてんだからそれ戻しちゃダメでしょ、普通買わなきゃダメでしょ。

「オレ今日これ買うのやめる!」
「あ、そう?わかってくれたみたいでよかった」
「いや、あの、そうじゃなくて」
「?何?」
「オレは、が好きだからちゃんと段階踏みたいと思います!」
「……え、あ、ええ、私!?」
「だから、とりあえず第一段階として告白してみたんですが、どう?」

ふわふわした茶色い前髪の下に赤くなったほっぺが覗いてる。赤いのは、私も一緒。
とりあえず、次の段階のデートについて話しましょうか。
















第一関門突破!
07.12.30
(潰れたあれは、ちゃんと買いました。いつ使うかは、ヒミツです。)