※モブ男視点です


高校時代の同窓会が行われた。
といっても大規模なものではなく、東京にいる何人かで集まろうというものだ。
学年全体の同窓会だったが、集まったのは50人ほど。多い人数ではあるが、学年の人数を考えれば小規模なほうだ。

「よー、久しぶりだなー」

高校卒業以来会ってないやつも多数いる。
あのときは飲めなかった酒を飲みながら、高校時代の思い出話をする。
三年時に同じクラスだったやつらと話していると、向こうの席に氷室との姿が見えた。
二人とは二年のときに同じクラスだった。
ちょっと声を掛けにいこう。そう思いオレは席を移動した。

「よ、久しぶり」
「あ、久しぶりだね!」

声を掛けると、は笑顔で返してくれる。
は変わってないなあと思う。
特別可愛いわけじゃないが愛嬌があって密かに男子の間では憧れの的だったのだ。
オレもそんな数ある男子の一人だったけれど、二年の途中に転校してきたイケメン帰国子女にかっさらわれてしまったわけだが。
今も二人は隣に座っていることを見るに、と氷室はまだ続いているようだ。

「氷室も久しぶりだな」
「ああ。元気だったか?」
「もちろん」

そう言いながら、オレは氷室のグラスにビールを注いだ。

「わー、、久しぶりー!」
「きゃっ!」

は後ろから同級生の女子に突撃されている。
…いや、もう二十代なのだから女子というのは適当ではないんだろうが、ついあのころの癖で女子と言ってしまう。

「ね、ちょっとこっち来て!見せたい写真あるの」
「うん。じゃあ、二人とも、また後でね」

はオレと氷室にそう告げると、女子と一緒に向こうの席へと歩いていった。

「お前らまだ続いてんだなあ」

ビールを飲みながら、氷室にそう言った。
卒業からもう十年近く経っている。
高校時代につきあってた奴らのほとんどはもう別れたなんて話を聞いているのに、と氷室は未だ付き合いを続けているようだ。

「まあ…続いてるって言うか、結婚したから」
「え、マジで!?」

氷室から返ってきた言葉は予想外のものだった。
いや、当時の仲の良さを考えればまったく予想外ではないのだが、年齢的に少し早いような気もする。
していてもおかしい年齢ではないけれど、会社の同期なんかも、「まだ結婚はちょっとなー」なんて言っているぐらいだ。

「ああ、この間」
「へー、めでたいなあ!」

を好きだったといえど、それはもう昔の話。
今でこそオレはフリーだが、大学時代に彼女だってできた。
に対して未練はない。
けれど、やはりオレの淡い初恋、ちょっと文句の一つでも言ってやろうと思い口を開いた。

「なんだよー、オレ、高校の時のこと狙ってたんだぜ。それがぽっと出のお前にかっ攫われてさあ」

あはは、と笑いながらそう言った。
別に本気の文句じゃない。
よくある定番の祝い文句だ。

しかし、その言葉を聞いた氷室はすっとその表情から温度を消した。

「へえ、狙ってんだ」

氷室は口元こそ笑っているものの、目が全く笑っていない。
これはまずい。オレは本能的にそう察した。

「やだなあ、冗談だよ冗談!お幸せにな!」
「ああ、ありがとう」

冷や汗をかきながら氷室の背中をばんばんと叩いた。
そう言えば氷室はずいぶんと嫉妬心が強かった。
高校時代もこういう場面に何度か遭遇していたが、すっかり忘れきっていた。

「どうしたの、二人とも」

バンバン背中を叩いていると、がこちらの席に戻ってきた。

「結婚したんだって?おめでとう」

に向かってそう言うと、は照れたような笑みを見せた。

「うん、ありがとう」
「お幸せにな」

氷室がこんな調子じゃは苦労しそうだなあと思いつつ、この幸せそうな笑顔を見ればそうでもないのかな、とも思う。
なんにせよ、オレの淡い初恋の相手が幸せそうに笑ってくれているのはいいことだ。









いつまでもお幸せに
15.10.15

10月は今年も氷室祭り!





感想もらえるとやる気出ます!