「アメリカってキスが挨拶って言うけど、本当?」

放課後、日直の氷室と日誌を書いていたときのこと。
アメリカ暮らしが長かったらしい氷室に、前々から思っていた疑問をぶつけてみた。

「ずいぶん唐突だね」
「まあ、いきなりかなとは思ったけど、前から気になってたんだよね」
「うーん、まあ本当と言えば本当だけど、いきなり口にキスするとかはないよ。だいたいは頬。いきなり挨拶代わりに口にしてきたらそういう趣味の人か、口説かれてるとか、ただ単に軽い人だったとか」
「へえー」

ずっと気になっていたことがわかってすっきりだ。
やっぱり口同士っていうのはそれなりのハードルがあるのか。

「ありがと、すっきりしたよ」
「そう、どういたしまして」

しゃべっていたら日誌を書く手が止まってしまっていた。
さて、と気を取り直して続きを書こうとしたら

「キスしていい?」

とんでもないセリフが聞こえてきた。
教室には私と氷室しかいない。
つまりさっきの発言の主は氷室であり、その相手は私ということ。

「…何か悪いものでも食べたの?」
「食べてないよ?」
「…ああ、そっか。ほっぺに?挨拶っていってたもんね」
「いや、口に」
「……氷室はそういう趣味の人だったの?」
「心外だなあ」
「じゃあ、軽い人?」
「どうして外してくるかな」

氷室は笑いながらそう言った。
いや、だってまさかそんなはずが

「口説いてるんだよ」

日誌を書くために持っていたシャーペンが机から落ちる音がした。

「な、にを」
「本当はもうちょっと黙ってるつもりだったけど、二人きりでキスの話なんかされたら、歯止めが利かなくなるよ」
「いや、キスの話は本当に前々から気になっていただけで、単純な好奇心が9割だったんだけど!」
「じゃあ、残りの1割は?」

残りの1割は、下心。

そう答える前に、唇が塞がれた。


「…残りはオレと同じ気持ち、だろ?」
「………!」

キスしたのは一瞬のはず。
だけどとても長く感じた。






永遠のように長く

capriccio様から拝借
きみにキス、きみとキスお題



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