「かんぱーい!」
金曜の夜、居酒屋にて。
今日は同期の飲み会だ。
「さん、結構酒豪?」
「氷室くん」
そう言いながら、氷室くんが私の隣に座る。
氷室くんは女子社員の憧れだ。
この顔に180オーバーの身長。
しかもフェロモンというか、色気というか、そういうものまであるから、女子社員は彼と話すと中学生のように色めきたつ。
私だって、例外じゃない。
「氷室くんも結構飲むね?」
「まあ、それなりにね」
こんな何でもない会話がドキドキする。
本当に、中学生みたいだ。
「でもさん、結構顔赤いよ?」
「だいじょーぶ!見た目より酔ってないから」
ふふ、と笑ってみせる。
だって顔が赤いのは違う理由。
かっこよくて、妙な色気まで振りまいて、その上、優しい氷室くん。
いつもさりげなく、気を遣ってくれる。
重い物を運べばすかさず持ってくれるし、ミスして落ち込んでいれば優しく励ましてくれる。
本当に、素敵な人だ。そんな人といて、顔が赤くならないわけがない。
でも、こんな人なんだから、当然彼女の一人や二人いるだろう。
だから気持ちがバレないように、そっとしまっておこう。
仕事もやりにくくなるしね。
うん、これでいい。
*
「じゃあ解散なー。お疲れさまでした!」
「お疲れ〜」
飲み会終了。二次会に行く人もいるみたいだけど、私は遠慮した。
…というか、本当に飲み過ぎたかもしれない。
ちょっと気持ち悪い。
「さん大丈夫ー?」
「うん、平気」
「そう?じゃ、また月曜ね〜」
仲のいい女の子とたちと別れる。
早く帰って寝よう。
そう思って一歩踏み出した瞬間、
「大丈夫?」
「!」
氷室くんが私の腕をつかんだ。
「え、あ、ど、どうしたの」
「ふらついてるよ」
「あ…」
「やっぱり酔ってるじゃないか」
酔ってない、と言おうとしたけど、この体たらくで言えるはずもない。
氷室くんは傾いた私の体を支えてくれる。
「送って行くよ」
「え?」
「ふらふらしてるし、一人じゃ危ないよ」
お、送って行くって、それって、大丈夫なの?
それともこれって普通なの?
もう20代、大人ではあるけど、そういうことにあまり免疫はないというか。
送って行くとか、ちょっとアレな気がするんだけど、実際はそんなことないの!?
「こっちだよね?」
「え、あ、うん」
氷室くんは私の手を引っ張る。
酔いのせいか、混乱しているせいか、頭が回らない。
そのまま氷室くんに連れて行かれる。
*
「家、ここ?」
「う、うん」
あっという間に一人暮らししているマンションのドアの前に辿りつく。
本当、これ、どう、どうなの。
「鍵は?」
「は、はい」
そう言って鍵を開けて、ドアを開ける。
部屋の中に一歩入ると、氷室くんが私の腕を引っ張る。
バランスを崩して転びそうになった体を、氷室くんがドアに押し付ける。
「…っ」
キス、された。
え、ええええ!?
やっぱりそういうことなの!?
いや、でも私、氷室くんならオールオッケーというか。
寧ろ嬉しいくらいというか。
で、でも、氷室くんはどうなんだろう。
軽い気持ちとか、酔った勢いとか、そういうのだったら…。
「…ひ、氷室くん」
顔を真っ赤にして名前を呼ぶと、氷室くんは優しく微笑んだ。
「おやすみ」
そう言って私から体を離す。
え、お、おやすみ!?
帰るの?!
「え、ひ、氷室くん!?」
「ん?」
「か、帰っちゃうの…?」
思わずそう聞くと、氷室くんはクスッと笑った。
「泊まって行ってほしい?」
「え、あ…」
「オレも最初はそのつもりだったけど」
氷室くんは私の髪を撫でながらそう言う。
私の顔は相変わらず真っ赤だ。
「酔った勢いでそうなるのは、嫌だな」
「え…」
「さんとは、ちゃんとしたときに、そういうふうになりたい」
だからまた今度ね、と氷室くんは優しく言う。
私は思わず帰ろうとする氷室くんの服の袖を握った。
「?」
「あの、私…もう、酔ってないよ」
「…」
「今ので醒めたから、その…」
そう言うと氷室くんは一歩私に近付く。
もう、意識ははっきりしている。
「…いいの?」
「氷室くんなら」
違う、「氷室くんなら」じゃない。
「氷室くんが、いい」
氷室くんはもう一度私にキスをする。
深く、情熱的なキス。
「氷室くん…」
「遠慮しないよ」
「は、はい」
心臓がドキドキ言ってる。
苦しいくらいに。
「ひ、氷室くんは」
「?」
「…酔ってないよね?」
「酔ってるよ」
氷室くんは笑って私の耳元で囁く。
「にね」
ああ、もう。
私もとっくに酔ってます。
遠慮しないよ
13.09.17
アルミさんリクエストの社会人オフィスラブでした〜
アルミさんありがとうございました!
最初はそのまま部屋に行って事へ持ち込ませようかと思ったんですが、
それだと氷室さんが本気かどうか見えない!ちょっと一旦引かせよう!と思って引かせたんですが、
いざ書いてみるとそれひっくるめてすべて氷室の計算に見えて
目的のためには手段を選ばない氷室さん恐ろしい という結果に…
タイトルもめちゃくちゃ迷ったんですが氷室のセリフが自分の中でやたら残ったので
何を遠慮しないかはご想像にお任せします
感想もらえるとやる気出ます!
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