今日は決戦の日だ。
友達に言ったら「そんな大げさな…」と言われたけど、紛れもなく決戦。
今日は大我にお弁当を作ってきたのだ。
料理上手な大我にお弁当を作ると言うのは、確実に決戦だろう。
話の発端は、一種間前に遡る。
大我が珍しく購買のパンではなく、自分で作ってきたお弁当を昼休みに食べていたのだ。
「おいしそうだなあ」
「そうか?」
「ねえ、一口ちょうだい」
「おお」
そう言って大我はお弁当を差し出す。
何にしようか。卵焼きかな。
「おいしい!」
「サンキュ」
「いいなーねえ、私にもお弁当作ってよ」
「はあ?」
「ね、一回でいいから!」
そう頼み込むと、大我はため息を一つ吐く。
「まあ、別にいいけど」
「本当?やった!」
「その代わりお前、オレの分作れよ」
「…え?」
な、何ですって…!?
「交換条件」
「え、ええー…だって私が作ってもたぶんおいしくないよ?」
「別にうまいのが食いたいわけじゃねーよ」
大我さん、その発言はちょっと失礼じゃないですかね。
そう突っ込みたかったけど、まだ続きがあるようなので黙っておいた。
「お前の料理が食いたいんだよ」
大我は珍しくちょっとはにかみながらそう言う。
一気に嬉しくなった私、お弁当を作って来ることをあっさり了承したのでした。
まあ、それで一週間後の今日、お互いお弁当を作って来ることになったんだけど。
今までまともに料理をしたことがない私は、一週間みっちりお母さんに付き合ってもらいなんとか形になってはきた。
きたけど、大我に出せるレベルかというと…。
「……」
い、いや、大我は『私の』料理が食べたいって言ってくれたんだし!
大丈夫大丈夫!別に吐き出すような不味いお弁当じゃないし!
そう言い聞かせ、お昼休みを待った。
*
「で、では」
「おう」
「どうぞ…」
「サンキュ。これな」
昼休み、教室で食べるのは恥ずかしいので、屋上でお弁当の交換だ。
汗だくなのは暑いからだ。そう、それだけだ。
「い、頂きます」
「いただきます」
二人揃ってお弁当を開ける。
大我のお弁当は、相変わらずおいしそう。
いや、おいしそうじゃない、おいしいんだ。
一口食べてそう思う。
うう…彼氏より料理が下手な彼女でごめんなさい…。
「うまい」
「え?」
「なんだよ、謙遜してたけどうまいじゃねーか。オレのより全然いける」
大我は私のお弁当を食べながらそう言う。
「いや、どう考えても大我のお弁当の方がおいしいんだけど」
「いや、お前のほうがうまいだろ」
「…味覚おかしいんじゃない?」
「はあ!?」
「だって大我の方がおいしいし!」
「人の味覚にケチ付けんな!うまいっつったらうまいんだよ!」
毎日のように料理を作っている大我と一週間の付け焼刃の私、どう考えてもうまいのは大我の方だろう。
半ばケンカになりつつ言い合いをしていると、大我の肩に白い手が。
…白い手…?
「キャーーーーーーッ!!?」
「おわっ!?」
「あ、すみません。驚かせるつもりじゃなかったんですが」
「あ、黒子くん…?」
大我の肩に乗せられた白い手の正体は黒子くんだった。
一瞬幽霊かと思った…とは言わないでおこう。
「お邪魔しちゃ悪いと思ってたんですが、どうしても一つ言いたくなったので」
「あ?」
「な、なに?」
「二人とも、相手のこと褒めるという不思議な喧嘩をしてますが」
「……」
そう言われれば、まあ、不思議なケンカですね…。
「お互いのお弁当のほうがおいしいって話ですよね」
「そうなの!絶対大我のお弁当の方がおいしいと思うんだけど黒子くんどう?!」
「いや、ぜってーこいつのほうがうまいって」
「………」
そう言うと黒子くんは呆れたようにため息を吐く。
…なんか、ショックだ。
「好きな人が自分のために作ってくれた料理を世界で一番おいしいと思うのは、当たり前じゃないですか」
「だから痴話喧嘩はそろそろやめてくれませんか」と、言い残して黒子くんは屋上を去って行った。
「……」
「……」
私と大我は、なんというか…照れくさくてお互いお弁当を見たまま。
く、黒子くんめ…。
「と、とりあえず、食うか」
「そ、そうですね」
そう言ってそのまま黙って二人でお弁当を平らげた。
やっぱり、大我の料理が、世界で一番おいしい。
世界で一番おいしいごはん
13.06.26
恋人にお弁当を作ろうシリーズ
火神は絶対に「お前の作った飯が一番うまい」って真顔で言ってくれるって信じてます
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