「…

遠い意識の向こうで辰也の声が聞こえる。
愛しい人の声だ。
半ば無意識に腕を伸ばした。

、起きて」

ああ、そうか。私は眠っていたんだ。
重い瞼をゆっくり開ける。

「おはよ」
「…おはよ…」

重たい瞼をこすって目を開ける。
たくさん眠ったはずなのに、まだまだ眠い。

?」
「…眠い…」

そう言いながら辰也に抱きつく。
昨日の夜から朝までぐっすり寝て、今も昼寝をしたのに、どうしてこんなに眠いんだろう。

「まだ寝る?」
「ん…起きる」

そう言うと辰也がキスをしてくる。
おはようのキス…とは違うか。
今はもうお昼だ。

「妊婦さんが眠いって本当なんだね」

大きく欠伸をすると、辰也が笑う。
私も自分が妊娠する前にそう聞いて、「そんな人もいるんだ」ぐらいに思っていた。
今はその言葉が身に沁みてわかってる。

「んー…起きてきた」
「そう?よかった。ちょっと待ってて」

辰也はキッチンへ行くと、お茶を持ってきてくれた。
ノンカフェインの紅茶だ。

「ありがと」
「大丈夫?体、つらくない?」

辰也は私の肩を抱きながら気遣ってくれる。
私のお腹に赤ちゃんがいるとわかったときからずっとこんな調子だ。
それまでも優しかったけど、今はより一層。

「大丈夫だってば」

辰也の胸に顔を埋める。
私は一般的に言われる悪阻はあまりなく、その代わりとにかく眠い。
眠り悪阻というものがあるらしいけど、私はそれなのだろう。

「ちょっと眠いけど」
「眠たいときは体が眠ってって言ってるんだよ。ちゃんと寝て」

辰也は私を諌めるようにそう言う。
自然と笑みが零れた。

「ふふ」
?」

私は何て幸せなんだろう。
私が結婚した人は、優しくて頼りになる、素敵な人だ。
この人を好きになってよかった。
この人と結婚してよかった。

「幸せだなって思って」

こんな何気ない日常で、幸せを実感できる。
毎日がとても光り輝いているよ。

「オレもだよ」
「うん」
「これからもっと、幸せになれる」

辰也は私のお腹を撫でる。
少し大きくなったお腹。

「大変にもなるだろうけど」
「うん。頑張ろうね」

ぎゅっと手を握って誓い合う。
これからも一緒に頑張ろう。
このまどろみのような幸せな時間を、ずっとずっと続けよう。













春の午睡
14.10.29

タイトルはAll the Best!の夏月さんにつけていただきました
ありがとうございましたー!




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