新学期、毎年この時期は憂鬱だけど今年は違う。

「…よし、髪型オッケー」

朝、家を出る前に入念に身だしなみをチェックする。
今日は一ヶ月半ぶりに好きな人に会えるのだ。
勉強は面倒くさいけど、学校が始まるのは楽しみだ。
毎日好きな人に会えるなんて、夢のようだ。

「行ってきまーす!」

勢いよく家を出て、学校までの道を少し早足で歩いてく。

だんだん、誠凛の制服を着た人が増えてきた。
「ひさしぶりー」「学校めんどくせー」なんて言葉を聞きながらうきうきと通学路を進んでいく。

学校に着く前に、彼に会えないかな、なんて思いながら。

さん」
「?」

名前を呼ばれて振り向くと、そこにはまさに想い人の姿が。

「く、黒子くん!」
「おはようございます、久しぶりですね」
「う、うん。そうだね、元気だった?」

まさか教室に行く前に会えるなんて。
軽くスキップしたいくらいだ。

「はい。さんも元気そうですね」
「うん!学校始まったし!」
「珍しいですね」

黒子くんはくすっと笑った。

「普通、夏休みが終わったら残念がりますよ」
「あ、うん、そうだよね…」

私ははっとして意気消沈。
そりゃ普通は休みが終わったら落ち込むよね…。

「でも、ボクも学校始まってうれしいですよ」
「本当?」
「ええ、だって夏休みの間は毎日部活でしたから。授業のほうが楽です…。部活は楽しいんですけど」
「あ、そっか。バスケ部ずっと練習してたらしいもんね」
「はい、それに…」
「それに?」
「あ、えっと…」

黒子くんは珍しく言いよどんでいる。

「どうしたの?」
「そうですね、その、学校始まると友達に会えますし」
「そうだよね!」

その「友達」の中に私も入ってるといいなあ、なんて思いながら黒子くんの隣を歩く。
私も一緒だ。学校が始まれば、友達に会えて嬉しい。
それを伝えようと笑顔で告げる。

「私も黒子くんに会えるから学校始まって嬉しいよ!」

全部言い終わった後にハッとする。
あ、あれ、私、今何言った…?!

「あ、あの、今の違くて」

慌ててさっきの言葉を否定する。
違うんだ、私は「友達と会えるから学校始まって嬉しい!」って言おうとしたんだ!
いや、違わないんだけど…!

「あの、さん」
「は、はい…」

穴があったら入りたい。
自分をうっかり屋だと思ってはいたけどまさかこんな…!

「あの、ボクも一緒です」
「え?」
「『友達』って言いましたけど、さんと会えるの楽しみにしてました」

え?
まさかの返答に私を目を丸くする。

さんの言葉も、ボクと同じだと気持ちからだって思っていいですか?」

そんなの、決まってる。


学校が始まってただでさえ嬉しかったのに、ますます明日から楽しみだ。












はじまりはじまり


12.09.05