っちー!好きっスー!」
「へー」
「クーーーール!!!」

モデルもやっている強豪バスケ部のエース。
そんな人から告白されたらそりゃ嬉しいし緊張もするだろう。
私だって、最初は緊張した。そう、最初は。

「何度もこんなこと言われたら麻痺するってものよ」
「ひどいっすよ〜」

ひどいと言われれても仕方ない。本当のことだ。
しかもこんな調子で、本気で言ってるとは思えないような言い方。
嬉しくも恥ずかしくもなんともない。
現にこんな公衆の面前で言われているのに、周りの反応も至ってクールだ。

「黄瀬さあ」
「なんスか?」
「うざい」
「ひどいっス!」






「はあー…」

日本史で使った地図と資料集を持って社会科準備室へ。
こういう面倒な時に日直になるとはついてない。

っち―!手伝うっスよー!」

後ろから黄瀬が駆け足で近付いてくる。
それはありがたい。

「ありがとう黄瀬。よろしくね。じゃあ」
「いやいやいや!これは二人で半分ずつ持つのがロマンスの始まりじゃないっスか?」
「ロマンスとか始まりませんから。よろしく」
「えー!一緒に行きましょうよー!そうじゃなきゃこれここに置いてくっス!そしたら困るのっちでしょ!?」

黄瀬はそう言うと地図と資料集を床に置いた。
…こいつ…。

「…ねえ、あんた、私のこと好きじゃないの?」
「好きっスよ?だから少しでも一緒にいたいんじゃないっスかー」

…はあ。
ここに置いて行かれたら困るのは私だ。
大きなため息を吐いて私は荷物を持った。

「いや、なんで一人で持つんスか?」
「別に一人でも持って行けるし」
「だーかーら!手伝うってば!」

黄瀬は半ば無理矢理地図を持つ。
どうせなら全部持って行ってくれよ…。
まあ、そんなことを思ってもしょうがない。
私は黄瀬と一緒に準備室へ向かった。


「これ、どこに置くんスか?」
「適当でいいんじゃない?」

棚に資料集を置いて、任務完了。
さて、教室に戻ろう。

そう思ってドアに手を掛けると、黄瀬が私の手を掴んだ。

「…何」
「ん〜?」

黄瀬は私の手を引っ張ると、私の体を壁に押し付ける。

「ちょ」
「ねえ、っち、オレが全然真剣じゃないと思ってるでしょ」

そりゃあもう。
あんな言い方で本気だと思うほうがどうかしている。

「オレ、こう見えても真剣なんスよ?」
「…どいて」
「やだー」

黄瀬はおどけた言い方だけど、顔は真剣だ。
顔が、近い。

「…黄瀬、どいってってば」
「どかない」
「…どうして」

黄瀬なんか、好きではない。いつもへらっとして、真面目じゃなくて。
好きじゃない。けど、こんなきれいな顔を間近で見たら、どうしたってドキドキしてしまう。

「オレ、本気なんスよ。それをわかってもらうにはどうしたらいいかなーって」
「本気とか、信じられない」

そう言って見せれば、黄瀬は顔を曇らせる。

「どうして?」
「いつもふざけた言い方して、そんなので信じられるわけないでしょ」
「えー」

あれで本気だと思う方がどうかしてる。
そもそも、黄瀬はいつもふざけておどけて、何事にも本気に見えない。

「オレ、本気っスよ」
「見えない。ていうか、早くどいて」

ここから出ようにも、黄瀬の腕が邪魔して動けない。
早くどいてくれないと、なんだか、おかしくなりそうで。


「な、名前」
「好きっス。本当に、一番」

黄瀬は今までにないくらい真剣な表情をする。

「……っ」
「ねえ、

耳元で囁かれて身をよじる。
どうして、こんな。

「オレ、こんなに人のこと好きになったの初めてなんスよ。なんでかわかんないけど、すっげー好きなんス」
「…知らないっ…」

黄瀬なんか、好きじゃない。
好きじゃない、絶対。
今、心臓がうるさいくらい跳ねているのは、ただ近いから。それだけだ。

「ねえ、
「…っ…」
「うおおお!?」

静かな教室に、黄瀬の悲鳴が響く。

「ちょ、何するんスか?!」
「弁慶の泣き所を蹴ってやったのよ!」
「ひどいっス!めっちゃ痛いっ!!」
「知るかバカ!」

うなだれる黄瀬を放って教室を勢いよく出る。

あんなヤツ知らない。
私は、あんな黄瀬を、知らない。
ドキドキしたのは、顔が近かったから、ただ、それだけだ。

必死に言い聞かせて、廊下を早足で歩いた。

























はじめまして
12.12.19

リクエストの片思い+壁ドンの黄瀬でした
風宮さんありがとうございました!












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