今日の部活はミーティングだけだ。
部活が終わった後、私と辰也は早々に帰り支度を整えた。
「二人とも今日は早いね〜」
「今日は一緒に映画見るんだ。ね?」
「うん」
辰也の言う通り、今日は部活が早く終わるのをわかっていたら前々からDVDを見ようと約束していた。
私も辰也も前から見たがっていた映画だ。
ゆっくり見るために早く帰らなくっちゃ。
「じゃあね。また明日」
「ばいばーい」
敦にそう言って私たちは部室を出る。
その瞬間、私の鼻に水が当たる。
「あれ、雨降ってる…」
「本当だ」
部室から出ると、外は雨が降っていた。
部室の中にいたときは音が聞こえなかった位には弱い雨だけど…。
「オレ、傘持ってないや」
「やっぱり」
辰也はとぼけた顔でそう言ってくる。
辰也は見た目に反して鷹揚というか大雑把というか、とにかく細かいことに拘らないので、朝雨が降っていないと大体傘は持っていない。
「私持ってるよ」
「よかった。さすがだ」
「もう…天気予報見た?雨降るって言ってたよ」
「そうだっけ。まあいいじゃないか、が持ってるんだから」
辰也に傘を渡すと、辰也は嬉しそうな顔で傘を開いた。
まあ、確かに辰也が傘を持ってきていたところで、結局使うのは一本だからいいと言えばいいんだけど。
「私が一緒に帰れないときはどうするの?」
「そのときは走って帰るか…あとほら、確か職員室で傘貸出してるだろ。それでいける」
「もう」
そんな話をしながら辰也と帰り道を歩く。
途中で辰也が私の肩を抱き寄せる。
「もっとこっち来ないと濡れちゃうよ」
「ん」
辰也と歩くときはいつも傍に寄るけど、相合傘をするときはより一層だ。
辰也に体を寄せると、辰也は一瞬驚いた顔をする。
そのまま私の髪に顔を近付ける。
「、なんかいいにおいがする」
「え?」
辰也はそう言ってにっこり笑う。
いいにおいと言われるのはうれしいけど、湿気があるから汗かいてる気がするし、あまり近付かれると変に思われないか心配だ。
「うん。いいにおい」
「そうかな…別に何もつけてないんだけど
「そう?シャンプーかな」
確かに今使っているのは辰也が前にも「いいにおいだね」と言ってくれたものだけど、あまり嗅がれると恥ずかしい。
「!」
照れていると、辰也の顔が私の顔に近付く。
慌てて辰也の唇を手でおさえた。
「だ、ダメだよこんなところで」
今、絶対辰也はキスする気だった。
こんな外の通学路で、いつもダメだって言っているのに。
「だってこんなにが近くにいるのに」
辰也は眉を下げて、甘えるような口調で言ってくる。
その口調に私が弱いことを知ってやっているから性質が悪い。
絆されそうになる心をぐっとこらえて、辰也をキッと睨み付ける。
「外はダメっていつも言ってるでしょ」
「ええー…」
「そんな声出してもダメ!」
悲しげな声を出す辰也に対してきつい声で止める。
辰也は油断するといつもこうなんだから。
「どうしても?」
「どうしても!」
「オレ、とキスがしたい」
ストレートに言われ、ポッと顔が赤くなった。
その一瞬の隙を、辰也は決して見逃さない。
「傘で隠せば大丈夫だよ」
辰也はそう言って、傘の天井に頭がついてしまいそうなぐらい傘を低くする。
隠された世界の中で、辰也は触れるだけのキスをする。
「辰也!」
「雨っていいね」
辰也が嬉しそうな笑顔でそう言うので、私はすっかり怒る気力をなくしてしまった。
花一つ
15.06.30
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