暑い暑い日差しの中、夏休み中にも関わらずわざわざ学校まで出向いた。
日焼けするし、汗はかくし、夏に外出してもいいことなんて何もない。
…じゃあ何で学校に行くのかっていえば、終業式の財前との言い合いが原因だ。


先生から通知表を渡されて、自分の成績を確認していたところ、隣の席の財前がすっと覗き込んできた。
慌てて通知表を隠すも時すでに遅し。財前は冷めた目で「家庭科3って…」と言ってきた。
別に家庭科3という数字がとんでもなく恥ずかしいわけじゃない(3だって立派な数字だと思う!)、ただ、財前のあの冷めた目がなんかムカついて、「そんな冷めた目で見るな!」と思わず言ってしまった。

「でもやっぱり女は最低家庭科4はほしいとこやろ…」
「それって男女差別」
「男女差別でもなんでも、それは俺の意志なんやから変えようがないんやけど」
「…まあそれはそれとしても、私本当は家庭科苦手なわけじゃないのよ?」
「…うそくさ」

いやほんとこれは言い訳くさいけど、今回の家庭科はミシンで雑巾作りだったのだ。そしたらなぜか私のミシンが原因不明の故障を起こし周りから遅れを取り、さらにタイミング悪くやたら長い間風邪を引いて提出日直前に作ることになって慌ててが故に上出来とは言いがたい状態で雑巾を提出する羽目になったのだ。
だから家庭科苦手なんじゃない!去年家庭科4か5だったし。この4だって限りなく4に近い3だと思う。というか思わせて。

「聞けば聞くほどうそくさいんですけど…」
「しょうがないじゃん本当のことなんだから!それに料理は本当にうまいのよ私。去年も調理実習のときの家庭科5だったし」
「へぇ、じゃあ部活んとき差し入れしてきてへん?」
「は?」

なんで今の流れでそんな話が出てくるんだ。
私が財前に差し入れする理由は塵一つもないと思うんですけど。

「嫌ならええで。断ったら家庭科だけやなく数学の成績大声でみんなに言ったるけど」
「ちょ、それって脅し!」
「ということでよろしゅう。できれば8月の頭親おらへんから弁当作ってきて」

部活の日程表のコピーを私に渡すと、財前は欠伸をしながら教室を出て行ってしまった。


そんなやりとりから約半月、実際にお弁当を持って学校に向かっている私がいる。
家庭科の成績ならまだしも、数学の成績だけは…!ああ、なんで数学の成績まで見られてしまったんだろう。

学校に着いて、テニスコートに向かうとテニス部の練習には似つかわしくない笑い声が聞こえてきた。
ああ、相変わらず変なことやってんだなテニス部は…。いや、変なことやってるのは学校全体か。
さすがに練習中の人たちに声を掛けるのは気がひけるので(第一恥ずかしいし)とりあえず物陰からこっそり見てようと思ったら、財前が私に気づいたのかこっちに駆け寄ってきた。

「ホンマに来たん?」
「だってあんたが持って来ないと…って脅したんじゃない」
「そらそうやけど…」

財前は頭をかきながら私の手にあるお弁当の入った紙袋を受け取った。
今度のは雑巾と違って自信作だ。…雑巾と比べるとなんか臭く感じるけど別に臭くはない。

「ありがたく受け取ってよ」
「…おおきに」
「これで私の数学の成績は一生財前の胸の中ね」

ほっと胸を撫で下ろすと、財前は少し上を向いて何か考えている様子を見せた。

「どうしたの?」
「…成績だけやなくて、自体も胸にしまっときたいんやけど」
「…はい?」
自体っちゅーより、の心?」

ますます意味がわからないんですけど。
…いや、意味はなんとなくわかる。だけど、それをそのまま、受け止めてもいいものか。

「なあ、ここまで言えば意味わかるやろ?」
「…わかるはわかるけど、さ。そういう意味なの?」
「多分、それで合ってる」

私の顔は多分赤くなってる、けど財前の顔も少しだけだけど赤くなってるみたいだ。
「何とも思ってない女に、差し入れ持ってこさせるわけないやろ」
数学の成績脅しに使いやがって、とちょっとムカついてたけど、その顔が可愛かったのでこれからも差し入れ持ってきてあげようかなと思った。

夏休みが終わる頃には、私の心は本当に財前のものになってしまいそうだ。
















ハイ・サマー
08.08.03




high summer vacation!