「辰也、辰也」
遠くの方で声がする。
の声だ。
「辰也、朝だよ」
「…ん」
「ほら、起きないと遅刻しちゃう」
ああ、そうだ。
今日はが泊まっていったんだ。
「ん…」
目を擦りながら体を起こすと、から軽くキスをしてきた。
「!」
「ふふ、誕生日おめでとう」
こんなふうにキスしてくるなんて珍しいと思ったら、そういうことか。
なりのサプライズのつもりだろう。
「ありがとう」
お返しにキスをする。
は嬉しそうに笑った。
「……あ、あのー…」
「ん?」
「辰也、今日一限からでしょ…」
「うん」
「じゃあちゃんと起きて!ていうか退いて!」
「ええー…」
キスをした後に押し倒すと、がそう言って膨れっ面になる。
あんなに可愛いことしておいて…。
「今日誕生日なんだし」
「だめ!私も授業あるし」
「いいよ、は真面目だから一日ぐらい大丈夫」
「……今日、ケーキ焼くつもりだったけどなしね」
「……」
「ごちそう作ろうかと思ってたけどそれもいらない?」
「…はい、わかりました」
そう言われて渋々から退く。
そのまま丸め込んでもよかったけど、練習もあるしどちらにせよ学校には行かなきゃいけない。
せっかくのケーキやごちそうがなくなるのは、寂しいし。
「じゃあ、帰ったらいっぱいくっついてもいい?」
「…う、うん」
そう言えばは赤くなる。
高校の時から変わらない。
こんな些細なことで、赤くなるが可愛くて仕方ない。
「朝ご飯、何か作る?」
「いや、まだパン残ってるから食べちゃわないと」
「そっか」
そう言ってはキッチンでパンを焼いてコーヒーを淹れる。
その間に顔を洗ったりと支度を進める。
オレの部屋なのに、の部屋みたいだ。
一緒に暮らしているわけではないけれど、もうほとんどそれに近いかもしれない。
がオレの部屋に泊まったり、オレがの部屋に泊まったり。
…のお父さんに知られたら、殴られるかな。
「はい」
「ありがとう」
目の前に朝食を差し出される。
…奥さんみたいだ。
「は今日午後からだっけ」
「うん。早く授業終わるし部屋で待ってるね。辰也は部活あるでしょ?」
「うん」
「お腹空かせてきてね」
は随分張り切っているようだ。
のご飯はおいしいから、楽しみだ。
「…」
「ん?」
「早く、結婚したいね」
そう言えば、は一気に赤くなる。
「え、え!?ど、どうしたの、いきなり」
「いつも思ってるよ」
いつも思ってる。
一刻も早く、と結婚したい。
そうやって、がどこにも行かないように、捕まえておきたいんだ。
「まあ、就職するまでは我慢かな」
「う、うん…」
とはいえ、まあ世間のこともあるし、あと数年我慢だ。
ちゃんと、を支えていけるようにならないと。
「…私もね、早く一緒になりたいなとか、そう、思うんだけど」
「?」
はオレに寄りかかりながら、恥ずかしそうに話し出す。
「最近は、どっちでもいいかなって、思ったりもするんだよ」
「」
「辰也と一緒にいられれば、そんなの、どっちでもいいかなって」
は笑ってそう言う。
、
「…っ」
「ねえ、やっぱり行かなきゃだめ?」
「だーめ」
「…はーい」
にキスしてそう言ってみたけど、やっぱり行かないとだめか。
このまま、二人でいたいんだけど。
「じゃあ、できるだけ早く帰ってくるから」
「うん」
朝食を食べ終わって、ちゃっちゃと支度をする。
今日は朝から授業だ。
「行ってくるね」
「…辰也」
がオレの服の袖を掴む。
少し恥ずかしそうに話し出す。
「…高二の誕生日に、「辰也がおじいちゃんになってもお祝いするよ」って言ったの、覚えてる?」
随分懐かしい話をする。
もちろん、覚えてるに決まってる。
「うん」
「…私は、どこにも行かないよ」
は優しく笑う。
心臓が、跳ねる。
「…結婚とか、しても、しなくても、私はずっと辰也のそばにいて、辰也の誕生日、一番最初にお祝いするよ」
全部、見透かしたかのようなの言葉に、反射的にを抱きしめる。
「」
「うん」
「…こんなときにそんなこと言うなんて、ひどいな」
「え?」
「行きたくなくなる」
「あっ」
はしまった、という顔をする。
…多分、早く結婚したいと言ったオレを見て、言わなくちゃと思ったんだろう。
いつもは鈍いくせに、こういうとき、いつもオレを救ってくれる。
「ご、ごめん」
「…いいよ。ただ、帰ったら覚悟してね」
「は、はい」
はまた赤くなる。
本当に、は可愛い。
ずっとずっと変わらない、オレの大切な人だ。
「、行ってくるね」
「うん。行ってらっしゃい」
そう言ってにキスをして、家を出る。
キスをするたび、満たされる。
こんな気持ちになるのは、だけだ。
がいてくれてよかった。
これからの一年も、が隣にいてくれれば幸せだ。
心の底から、そう思えるよ。
しあわせ
13.10.30
ハッピーバースデー室ちん〜〜〜!!!
氷室の過ごす日々が幸せでありますように!
感想もらえるとやる気出ます!
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