「緑間くん」
「なんだ」
「ちょっと、高尾くんについて聞きたいんだけど」

帝光中からの友人である緑間を呼び出して、そう切り出す。
そう、高尾くん。
隣のクラスの高尾くん。
接点なんてない私と高尾くん。
だけど、今まで何度か話したことがある。

「あー、キミ真ちゃんの友達っしょー?」
「あ、さん、ちょっと国語の教科書貸してくんない?」
「この間の試合応援来てくれたでしょ。ありがとね!」

と、まあ、こういう具合に高尾くんはちょくちょく話しかけてくれる。
人見知りの私はいつも「え、あ、うん」とかそういう情けない返事しかできない。
それが申し訳なくて、高尾くんと仲のいい、さらに私の友人である緑間くんに助けを求めたのだ。

「私、いつも高尾くんに話しかけられると微妙な返事しかできないんだけどさ、なんか申し訳なくて…」
「そうか」
「『そうか』じゃなくて!なんかこう…高尾くんの好きなものとか知らない?」
「好きなもの?」

緑間くんは顎に手を当てて考え込む。

「……キムチだ」
「は?」
「キムチを好きだと言っていたのだよ」
「……」

キムチ。キムチ…。
いや、緑間くん。私が聞きたかったのはそういうことじゃなくてね…。
趣味とか、なんかそういうのがあれば話も弾むかなって…。

「というかそもそも曖昧な返事しかできなくとも気にしなければいいだろう」
「そんなわけにはいかないよ。せっかく話しかけてくれてるのに」
「相手が勝手に話しかけていているのだから、お前が気に病む必要などないのだよ」
「……」

まあ、緑間くんの言葉も納得するものではあるのだけど。
私はそう割り切れないと言うか。
それに何より、ちゃんとお話がしてみたい。
どちらかというと目立たないタイプの私を、いつも見つけてくれる彼と。

「いつも変な返事しかできないから、変に思われてないかなあ…」
「それはないのだよ」
「?」

緑間くんはばっさり、即答する。

「ど、どうして?」
「いつものこと気にしているのだよ」
「え?」
「今日の試合はが見に来ていなくて残念だの、いつもそんなことを言っているのだよ。変に思っているやつをそんなふうに言ったりしないだろう」
「……」

………。
え、えっと、あの。
緑間くんは普通に言うけど、なんだか、その、随分照れくさいことを言っている気がするんだけど…。

「あれ〜さんに真ちゃんじゃん」
「あっ…」

噂をすればなんとやら。
高尾くんがやってきた。

「いい機会だ。そんなに気になるのならば二人で話せばいいのだよ」
「えっ!?」
「キムチの話でもしていろ」

そう言って緑間くんはいなくなる。
キムチ…キムチの話って言われても!?

「キムチ?」
「あ、えっと…高尾くんキムチ好きなんだって?」
「え、あー、うん。よく知ってんね」
「今、緑間くんが…」
「へ〜真ちゃんよくオレがキムチ好きなの知ってたな」
「……」

あ、ま、まずい。やっぱり、キムチがネタじゃ会話が途切れる。
な、何か言わなきゃ。
そう思うのに、私は何も言えない。

さんさー、なんか固くない?」
「えっ?」
「ほら笑って?」

そう言って高尾くんは自分の口角を指で上げてみる。
な、なにを。

「笑わないと!ね!」
「え、えっと、え、こう?」
「そうそう!」

言われるがままに笑ってみる。
ぎこちないけど、これでいいんだろうか。

さん、人見知りっしょ?」
「え?」
「いつもオレと話すとき緊張してるみたいだからさ〜でも最近ちょっと笑うようになってオレちょっと嬉しい」

高尾くんはからかうような声でそう言った。

「あ、あのね」
「ん?」
「私、人見知りで、うまく話せないこと多いけど」
「ん」
「…高尾くんと話すの、楽しいよ」

照れくさいのを抑えて、高尾くんにそう伝える。
少し変なことを言ってしまったかなと思ったけど、高尾くんは笑ってくれた。

「んじゃ、これからもガンガン話しかけちゃうよ?」
「よ、よろしくお願いします」
「こちらこそ〜」

…うん、高尾くんと話すのは、楽しい。
もっと仲良くなれたらいいな。そう思う。








ひとつ、ひとつ
13.07.30

ムツキさんリクエストの「緑間を介して高尾を仲良くなる話」でした!
リクエストありがとうございました〜!

高尾は元気系ヒロインのほうが合うかなあと思っていたんですが、いざ書くと大人しい系になります




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