誰が言い出したのかわからないけど、なぜかバスケ部のメンバーで海に行くことになった。

「海に行くんですよね」
「おう」
「…水着、着るんですよね」
「そりゃ、海に行くからな」
「……私も着なきゃダメですか?」
「お前が着ないなら海になんて行かねーよ。なんで男だらけで行かなきゃいけねーんだ」

福井先輩の言葉に喉を詰まらせる。
やっぱり、着なきゃいけないのか。

一応、これでも陽泉バスケ部の紅一点。
正直そんな見せられる体型じゃない。
まあ、部活中はTシャツにジャージとかそれなりに薄着だからみんなも承知しているだろうけど。

それにやっぱり、男だらけの中、一人水着って言うのは…それは…。

「大丈夫だよ」

ぽん、と優しく肩を叩かれる。
氷室だ。

「そんなに心配しなくても、うちの部にそんな変な奴はいないよ」
「そ、そうだけど」
「それに、何かあったらオレが守るよ」

氷室は爽やかな笑顔でそう言った。
す、すごい…こんな漫画みたいなセリフが似合う人初めて見た…。

「あ、ありがとう」
「うん。じゃあ、また明日」
「うん!」

少し心が軽くなり、明るい表情で部室を出た。
…うん、水着、頑張ろう。頑張って着よう。





次の日、部活が終わった後にみんなで海までやってきた。
みんなと一旦別れて、水着に着替えてまたみんなで集合する予定だ。

水着はビキニ。まさかのビキニ。
去年友達とプールに行くときにノリで買った奴。
まあそこまで布地が少ない奴じゃないけど…やはり恥ずかしい。
だからと言って、そんなにプールにも海にも行かないから、新しく買うのはもったいない。
ということで、このピンクのボーダーのビキニです。


「…よ、よし!ゴー!」

一応上にパーカーを羽織って待ち合わせ場所へ。
場所は正確には決まってないんだけど、うちのバスケ部の人達は背がとんでもないから探さなくてもわかる。

「あ、いた」

2mが3人。さすが見つけやすい。
とりあえず深呼吸。さあ行くぞ!
そう思って一歩踏み出したとき。



ぐい、と腕を掴まれた。
振り返ると、そこには氷室が。

「氷室」

心臓が跳ねる。
う、うわあ、恥ずかしい。
よりによって、一番最初に氷室に見られるとは。思わず身を捩る。

、可愛いね」
「えっ?!あ、ありがとう」

まさかそんなふうに言われるとは思わず、余計に恥ずかしくなる。
しかも、氷室は私の腕を掴んだまま。

「じゃあ、どこに行こうか」
「え?」
「泳ぐ?それとも何か食べる?」
「え?」

氷室の言葉に、私の頭の上は?マークが並ぶ。
ど、どういうこと…?

「いや、とりあえずみんなのところ行かないと」
「いやだな、そんな野暮なこと言わないで」
「え?」

氷室は私の腕を掴んでいた手を離したかと思うと、そのまま私の手を握る。
私の顔はボッと赤くなった。

「あんな奴らの前に、こんな無防備な姿見せられるわけないだろう?」
「え?え、ええ…?」
「どうする?のしたいことでいいよ」
「み、みんなのところに行くっていう選択肢は…」
「却下」

氷室はにっこりした笑顔で、でもきっぱりとそう言った。

「逃がさないよ」

キスしてしまうんじゃないかと思うぐらい顔を近付けて、氷室はそう言う。
昨日「何かあったから守るから」なんて言ったけど、どう考えても一番危ないのは、氷室じゃないか。








羊と狼
13.07.03

ヒロインが出て行った後の部室の氷室と福井先輩の会話


「…なあ」
「なんですか?」
「もしかしなくても、一番危ないのお前じゃね」
「やだなあ、人聞きの悪い」
「……」


やっぱりどう考えても狼なのは氷室でした
9周年企画でのアイさんリクエストの一緒に海に行く話でした!
リクエストありがとうございました〜!







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