「高瀬、三上さんに告白されたんでしょ?」

そう聞いたら高瀬は食べていたおにぎりを詰まらせた。むせる高瀬の背中をさすりながらわかりやすいやつだね、と言った。

「何で知ってんだよお前」
「いや、まあ、ぶっちゃけた話その現場を目撃してしまったわけですよ」
「覗きかよ、趣味わりー…」
「失礼な、私の屋上での清々しいお昼寝タイムを邪魔したのはあなたたちですよ」

簡潔に言えば、屋上で寝てて何か物音がしたから起きてみたら高瀬が三上さんに告白されていたっていう、そういうありきたりな話だ。決して趣味が悪いわけじゃない。その場から去ろうにも私がいた位置から屋上の外に出るには思いっきり二人の前を通らなければいけなかった、ってこと。そんな状態で聞かないというほうが無理に決まっている。それに、高瀬がどう答えるのか個人的に興味あったし。
三上さんは「野球してる高瀬くんを見て好きになった」とか、そんな感じのことを言っていた。やっぱり頑張ってる人をかっこいいと思うのはみんな一緒なのかな。

「オレ今野球のことで頭がいっぱいだから」
「おまっ…何でオレが言ったことまで覚えてんだよ」
「だって印象的だったんだもん、そんなこというの漫画の中だけだと思ってたし」

本当に申し訳なさそうな顔で、そう言った高瀬。その顔、言葉を忘れられるはずがない。高瀬はいつだって野球のことで頭がいっぱいなんだって、突きつけられて少し寂しかったんだから。

「好きな子に告白されてもそう言うの?」
「まあ…そりゃ好きな子だったあれだけど」
「じゃ、何で好きじゃない子はダメなの?『好きじゃなくてもいいの!』とか言う子もいるでしょ?」
「いや、その、あれじゃん」
「あれじゃわかんないって」

高瀬おじいちゃんになったの?と言わんばかりの指示語多用っぷり。いや、照れてるだけだってわかってるけどさ。

「好きでもない子を野球より大切にできる自信ねーもん」

さっきより顔を赤らめつつそう呟いた。何言わすんだよ!と軽くチョップをされた。いや恥ずかしいなら言わなきゃいいじゃん!と言ってチョップを返した。そのチョップは見事白羽取りされたけど。
高瀬の中のナンバーワンは野球。それは知ってる。でも、好きな子も一番なのかな。野球と一緒で、一番。好きでもない子、ということは好きな子は野球より大切にするとか、同じくらい大切にするとか、そういうことなんだろう。高瀬の、好きな子、か。

「ねえ、あのさ」
「ん?」
「私が高瀬を好きって言っても、付き合ってくれないよね?」
「…え?」

高瀬は私の右腕を掴んだまま、真剣な顔になる。

「…悪い」
「あ、はは!なんちゃって!」
、」

必死に笑ってみたけど、頬を伝う涙がそんな強がりを無駄にした。何で、言っちゃったかな、私。今告白したってふられるのわかってたのに。バカじゃないの。
だって、高瀬がそんな顔をするから。野球が一番大切なんだって、そんな顔をするから、止まらなくなったんだよ。

「本当に、悪い」
「いや、うん、私が勝手に言っただけだから、本当、気にしないで」
「オレ」
「私は、一番野球が大切な高瀬が好きだよ」

「だから、頑張って。もう、部活でしょ?」

行って来いよエース!そう言って高瀬の背中を押した。
、ごめんな、ありがとう」高瀬がそんなことを言うもんだから、また涙が溢れてくる。

涙は拭わず、部活へ向かう高瀬の後姿を見送った。
一生懸命で、きらきらしてる、光ってる。そんな高瀬を好きになった。





















ふり向くな  君は美しい
(私のことは気にしないで、きらきらしてる君が好きだから)

08.01.14






第86回全国高等学校サッカー選手権大会終了。
4119校のみなさん、お疲れ様でした!


高校サッカーの大会歌で高校球児の夢を書くなという突っ込みが入りそうですが
頑張ってる人はみんな素敵だからいいんです。