「おじゃまします」
「いらっしゃい」

大学の講義が終わった後、、辰也の家に遊びに来た。
今日は一緒に辰也の見たがっていた海外ドラマのDVDを見る予定だ。

「楽しみだな、DVDになるの待ってたんだ」

辰也は言いながらDVDをセットする。
機器から読み込み中の音がしている間に辰也はいつもの定位置に座った。

、おいで」

辰也が手招きをするので、私は辰也の足の間に座る。
辰也が後ろから私を抱きかかえるような格好だ。

「?」

辰也の腕の中におさまると、辰也が少し笑った。
なんだろうと思い首を傾げると、辰也はうれしそうな表情で口を開く。

、前はここに座るの、すごくそわそわしてたのにって思って」

辰也の言葉で、初めてこうしたときのことを思い出す。あれはいつのことだっただろうか。確か高校生の頃。


****


「おじゃまします」

放課後、私は辰也の部屋に来た。
今日は借りてきた映画を見る約束だ。

「アクションものだけど、平気?」
「うん。楽しみだよ!」

今回は辰也の希望を聞いてアクション映画だ。
とはいえ私もアクション映画が嫌いなわけじゃない。
今日を楽しみにしていたのだ。

「あ」
「?」
、こっちこっち」

辰也はDVDをセットして座ると、隣に座る私をちょいちょいと手招きする。
首を傾げながら少し辰也のほうに体を寄せた。

「もっとこっち」
「えっ」

辰也はぐいと私の腕を引っ張って、私を自分の前に座らせる。
わけがわからず戸惑っていると、辰也は座ったまま私を後ろから抱きしめてきた。

「辰也」
「これこれ。恋人同士といったらこれだろ?」

辰也はうれしそうな表情で、私に頬を寄せてくる。
ちょっとドキドキするけど、確かにマンガやドラマでよく見る光景を再現しているのはうれしいかも。

「よし、見よう」
「うん」

辰也はリモコンの再生ボタンを押す。
テレビ画面に製作会社のロゴが映し出される。

、寄っかかっていいよ」
「え?」

寄っかかっていいと言われても、重くないだろうか。
というかそもそもこういうのって寄っかかるものなんだろうか。
少し迷ったけど、辰也が期待の面持ちで見つめてくるので、その期待には応えねばと思い少し体重をかけることにした。

「重くない?」
「全然」
「そ、そう…?」
「楽にしててね」

辰也は私の頭を撫でながらそう言ってくる。そうしているうちにドラマの本編が始まった。

、かわいい」
「えっ!?」

ドラマの集中しようとテレビ画面を見つめていると、辰也が突然そう言ってきた。
辰也はよく唐突に「かわいい」と言ってくるけど、今回はさすがに突然すぎる。
私、今何もしていない。

「かわいい」
「え、ええ…」
「そこにいるだけで可愛い」

何を言っているの、と言おうとしたけど、辰也の目は本気だ。
そんな目で言われたら何も言えない。

「あ、ありがとう」

少し照れくさいけれど、やはり可愛いと言ってもらえるのは嬉しい。
しかしそこにいるだけでが可愛いとは、辰也もすごいことを言うなと思う。
あ、でも、私も辰也のことそこに立っているだけでかっこいいと思うし、お互い様なのかな。

「あ、始まったね」

宣伝が終わり、ようやくテレビに映画本編が映し出される。
わくわくしながらテレビを見つめる。

「…辰也?」

映画を見ていると、辰也が私の頭を撫でてくる。
どうしたんだろうと思って振り向くと、辰也は「なんでもないよ」と答えた。

「ちょうど撫でやすかったから」
「そう…?」
「うん。気にしないで」

そう言われたので私はテレビの画面を見ることにする。
そうしたら、辰也は今度は私の腕を触る。

「辰也」
「ああ、気にしないで」
「き、気にするよ」

こんなに触られたら気にするに決まっている。
少し文句っぽく言うと、辰也は少し落ち込んでしまう。

「だってこんなに近くにがいるのに、触らないなんてもったいない」
「もったいないって…」

「もったいない」というのもすごい主張だ。
別に私はいなくならないんだし、もったいないということはないと思うんだけど。

「映画に集中できない…」
「頑張って集中して」
「集中乱してるのは辰也でしょ!?」

唇を尖らせて文句を言うと、辰也は笑顔でぽんぽんと私の頭を撫でてくる。
私の意見など、まったく意に介していないようだ。

「別に変な意味じゃなくてさ、ただに触ってたいなって。ほら、映画進んでるよ」

そう言って辰也はテレビを指さす。
確かにこのままだと映画の内容が理解できないまま進んでしまう。

「とりあえず、触るのはダメ!わかった?」
「ええー…」
「じゃあ退く」

そう言って私は辰也の前から退こうとする。
そうしたら辰也はぎゅっと抱きしめてきた。

「わかった。触らない」

辰也はあっさりと私の申し出を受け入れる。
そんなにここにいてほしいのか。いや、私もここは嬉しいのだけど。

「触らないなら、いいよ」

辰也の答えを聞いて、私は安心して先ほどの位置に戻る。
これなら映画に集中できる。

「……」

…そう思ったけれど、結局この姿勢はこの姿勢でそわそわしてしまう。
結局映画には集中できなかった。



***



「あー、あったね。だって辰也すごく触ってくるし」
「触るのやめてもそわそわしてたじゃないか」

確かに、前はこの姿勢でいるだけでちょっとドキドキしたけれど、今はそこまでじゃない。
無論嬉しいのだけど、そわそわして集中できないということはない。

「今はドキドキしない?」
「ドキドキ…うーん、どっちかっていうと安心する、かな」

そう言って辰也に寄りかかる。
穏やかなときめきはあるけれど、激しい衝動はあまりない。
辰也の傍にいると、安心感が強い。

「ここが一番落ち着くの」
「そっか」
「うん」

辰也の胸のあたりに頬を寄せ想いきり甘えると、辰也は嬉しそうに笑った。

「ここね、大好き」
「オレも大好きだよ」

もちろん大好きな辰也、彼の傍にいればドキドキすることだってたくさんある。
だけど、こうしているときはひたすらに安心感を感じる。
優しいときめきと、穏やかな安心感。

「あ、始まる」

予告が終わり、ドラマの本編が始まる。
辰也に抱きしめられながら、私はテレビ画面に目を向けた。










私の居場所
15.10.20

10月は今年も氷室祭り!





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