カーテンの隙間から差し込む光で目を覚ます。
重い瞼をゆっくり開けると、一番最初に目に入るのは隣で眠っているだ。
の寝顔は可愛い。いや、いつだっては可愛いんだけど。
安心しきって深い眠りにつくを見ていると、心が温かくなる。
枕元の時計を見ると、時刻は10時過ぎ。
今日は特に予定もないので、もう少しのんびりしててもいいだろう。
オレはもう目が冴えてしまったけど、はもう少し寝かせておこう。
オレとは、つい先日結婚した。
入籍も式も済ませて、新婚旅行も行ってきた。
そんな慌ただしい日々が終わって、今は特に予定のない、少し気の抜けた時間だ。
こうやって夜寝る前にがいて朝起きたらがいる生活はまだ始まったばかりなのに、すでに何年もこうやって過ごしているような気がする。
ベッドから出て、コーヒーを淹れるためにお湯を沸かす。
その間に顔を洗って歯を磨いてしまおう。
洗面台の横には色違いの歯ブラシが並んでいる。
一緒に暮らすことを決めたとき、生活に使うものを一緒に買いに行った。
お揃いの歯ブラシにお揃いのスリッパ、お揃いのパジャマ。
と同じものを使っていると、オレたちは本当に一緒になったんだなあと思える。
歯を磨いている間に、ポットから軽快なメロディが流れる。
お湯が沸いたようだ。
マグカップにインスタントコーヒーを淹れる。
カップに口を付けると、苦味が口に広がった。
「…おはよー…」
寝惚けた顔のが寝室からリビングにやってくる。
眠い目を擦りながら、オレの隣に座った。
の唇にキスを落とすと、は微笑んだ。
「コーヒー飲む?」
「うん」
のマグカップもオレとお揃いだ。
そのカップにコーヒーの粉を入れて、お湯を淹れる。
は甘いのが好きだから、砂糖とミルクも。
「ありがとう」
カップを渡すと、は微笑む。
少し冷ました後に、カップに口を付けた。
「今日いい天気だね」
は窓を見ながら嬉しそうな声で言った。
「どこか行こうか?」
「うーん…」
こんなにいい天気の日に家にいるなんてもったいない。
そう思って聞いてみると、は少し上を向いて考え始めた。
「今日は家でのんびりしない?」
は両手でカップを持ちながら、眉を下げて聞いてくる。
オレよりの方が「いい天気だからでかけよう」と言い出すことが多いのに珍しい。
「ちょっと疲れちゃって」
「ああ、ごめん。昨夜無理させちゃった?」
そう言うの肩を労るように撫でる。
は頬を赤く染めて少し恥ずかしそうに言った。
「そ、そっちじゃなくて…引っ越しとか、式の準備とか、旅行とか、ずっと動き回ってじゃない?」
は持っていたカップをテーブルに置く。
隣に座るオレを見上げて真っ直ぐな瞳で言う。
「たまには辰也とゆっくりしたいなって」
はごろんとオレに体を預ける。
その肩を抱くとうれしそうな笑顔を見せた。
「そうだね。今日はのんびりしよっか」
「うん」
はオレを見上げると、オレの頬にキスをする。
うれしくなってをぎゅっと抱きしめる。
腕の中のが小さな声でつぶやいた。
「なんだか夢みたい」
がオレの左手を両手で握る。
お互いが薬指にはめた結婚指輪が当たり乾いた音がする。
「本当に私たち結婚したんだよね」
「夢だったらどうする?」
におでこをくっつけてそう言ってみる。
昔だったらこんなこと怖くて冗談でも言えなかった。
でも、今なら言えるよ。
「夢?」
「うん。起きたら高校生で、まだオレたち出会ってすらいないんんだ」
そう言ってみると、はにっこり笑った。
「そしたらね、また辰也に出会って、辰也のこと好きになって、付き合って、結婚して、また夢みたいって言うの」
は思っていたとおりの答えをくれる。
うれしくなってキスをする。
「そうだよね」
「うん」
「オレは生まれ変わってなにがあっても、を見つけてを好きになるよ」
もしもこれが夢だとしても、オレはなにがあってもを見つけて、と恋に落ちる。
そう確信しているよ。
「うん!」
がオレの首に腕を回して、笑顔のままキスをする。
「今までも、これからも、私たちずーっと一緒なんだよね」
「そうだよ」
「ふふ」
前は幸せを実感するたびに少しだけ怖かった。
この幸せが現実じゃないんじゃないかと、夢じゃないかと思って怖かった。
だけど今は違う。
と一緒にいるこの瞬間は現実のものだし、もし万が一夢だとしても、またと過ごしてきた幸せな時間がもう一度過ごせるだけだ。
何があってもオレたちは離れない。
今はそう確信しているよ。
Io Ci Saro
15.03.31
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