「氷室先輩かっこいいー!」

あ、ちんまた来てる。

「きゃー氷室せんぱーい!」

また、室ちん室ちん言ってる。
うるさいなー。


「アツシ、随分不機嫌だな」
「べっつにー」

室ちんの言葉に唇を尖らせる。
別に、ちんが室ちん室ちん言ってもどうでもいいもん。

「強がりだな、アツシは」
「?」
「それとも自分の気持ちに疎いのか」
「?室ちん何言ってんの」
「はは。いいよ、きっといつか気付くから」

含み笑いをする室ちんは嫌いだ。
何考えてるかわからない。

「さ、もう休憩終わりだ」
「はーあ」

休憩が終わってまた厳しい練習が始まる。
オレは大きなため息を吐いた。





「あ、敦おはよー」

次の日の朝、登校中にちんが話しかけてきた。

「昨日も氷室先輩かっこよかったね!」
「……」

そう言われて唇を尖らせる。
まーたその話だ。

「も〜ちんっていつもそれだよね」
「だってかっこいいんだもん!今日も見に行こうっと」
「来なくていいのに」
「敦がそう言っても行くわよ!」

来なくていいって言ってるのに。
横で室ちん室ちん言われると、目障りで耳障りだ。





「きゃー氷室先輩ナイッシュー!」

やっぱりちんはまた部活に来た。
まーた室ちんのことばっかりだ。

「なんか敦不機嫌アルね」
「うっさい」
「…本当に不機嫌アルね」

室ちんを見に来る女子はちん以外にもたくさんいる。
だいたいの女子は静かに見たりひそひそ話すだけだけど、ちんはうるさい。
そのせいか、余計にムカつく。

「氷室先輩かっこいい〜!」

ちんのその言葉で、オレの中の何かが切れた。

「アツシ?」
「……」

体育館の扉に向かう。
練習中だけど、そんなの知らない。

「……」
「敦、どうしたの?」
「……」

体育館の入り口の前に群がる女子たちの前に立つ。
ちんが能天気な顔で「どうしたの?」なんて聞いてくる。

「わっ!」

バーンと勢いよく体育館の扉を閉めてやった。
だってうるさいんだもん。

「敦!体育館閉めたら暑いアル!!」
「うっさい」
「アツシ…」

室ちんがため息を吐きながらこっちにやってくる。

「だってちんうざいんだもん」

何か言われそうだから、言われる前に言う。
監督だって前から嫌な顔してたし、みんなだってうるさいって思ってたでしょ。

「バカだなアツシ」
「は?」
「彼女、口ではオレのこと言ってたけど、視線はずっとお前のほうを向けていたのに」

室ちんの言葉に、体を硬直させる。

「…うそでしょ」
「見てればすぐにわかるよ」
「…っ、そんなん、別にオレ見てようがどうでもいいし」

ぷいと室ちんから顔を背ける。
室ちんのため息が聞こえた。

「やれやれ」

室ちんは体育館の扉を開ける。
さっきまでいた女子たちはびびったのかほとんどいなくなってる。
いるのはちんだけだ。

「氷室先輩!」
「ごめんね。部活は見ていてくれて構わないから」
「わーい!」

ちんと室ちんの話声にイラッとくる。
別に、二人が話してるからイラついてるわけじゃない。うるさいから。それだけ。
別に、ちんがオレのこと見てても、嬉しくもなんともないし。


「アツシのこと思う存分見て行ってくれて大丈夫だよ」
「…?敦?なんでですか?」
「…二人とも、鈍いんだなあ」










イライラの理由
14.05.27








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