、可愛いね」

辰也は私によくそう言ってくる。
それはとても嬉しい。
二人きりの時なら。

「好きだよ」

辰也はそう言って私の頭を撫でる。
頭を撫でて、頬を撫でて、私の肩を抱き寄せて、抱きしめて。
スキンシップは嬉しい。私も好きだ。
二人きりのときなら。

辰也はいつもこういうことをする。
しょっちゅう。
どんなときも。
周りに誰がいようとも。



「敦、敦、ちょっとこっち来て」

部活の休憩中、敦を体育館の外に呼び出す。

「なーにー?」
「あのね、ちょっと相談があるんだけど」

こういうこと相談しやすいのは、なんだかんだ敦だ。

「なに?面倒だから早くね」
「お菓子あげるから!」
「うん、なに?」

敦は一気に生き生きしだす。
大概のことは「面倒だから」と言って断ってくるけど、これがあるから敦はやりやすい。

「あのね…」
「うん」
「辰也ってさ、いつもこう…くっついてくるでしょ」
「うん、いつもイチャイチャしてるね」

恥ずかしくてごにょごにょと話すと、敦はあっさり返してくる。
まあ、こういうところが相談しやすい理由の一つでもあるんだけど。

「い、イチャイチャって…それをね、どうにかやめさせたいんだけど」
「やめたいの?室ちんのこと嫌いになったの?」
「そうじゃなくて!人前でするのをやめさせたいんだけど…」
ちんが言えばいいじゃん〜」
「言っても聞かないんだもん…」

私が「恥ずかしいからやめて」言ったところで、辰也は「恥ずかしがってるところもかわいい」と言ってくるだけだ。
もっとこう…ちゃんとやめさせられるような案がほしいのだ。

「うーん…あれじゃん、室ちんちんのこと超好きじゃん?」
「え、えっと…うん」

そう聞かれても「そうだね!」と同意しにくい。
もちろん好かれているという自信はあるのだけど。

「だからさー、『やめて』っていうより『こうして欲しい』っていうほうがいいんじゃない?」
「う、ん?」
「人前でイチャイチャするより二人きりでするほうが好きだからそうして〜みたいな感じで言ったみたら?」
「なるほど…!」

敦の言葉で、私は握り拳を作った。
確かにそれ、行ける気がする!

「今まで『ダメ』ばっかりだったから…なんかそれ行ける気がする!」
「そう〜?」
「うん!敦ありがとう!今度お菓子おごるね!」
「やったー」

丁度休憩の終了を告げるホイッスルが鳴る。
私と敦は体育館に戻った。

よし、もし今日同じことがあったら試してみよう!
いや、同じ事はないほうがいいんだけど!






「お待たせ、
「お疲れ」

今日も辰也と一緒に帰る。
辰也は今日は自主練しないようで、帰り道にはバスケ部はもちろん、ほかの部活の生徒もちらほら見える。

「わっ」

きょろきょろと周りを見渡していると、強い風が吹いた。
驚いて身を縮こませると、辰也は私の髪を撫でる。

「大丈夫?」
「うん」

辰也はぽんぽんとボサボサになった私の髪を直してくれる。
髪を手で梳かして、簡単に整える。

「辰也?」
「かわいい」
「きゃっ」

辰也は髪を整えた後、じっと私を見つめると、そう言ってぎゅっと抱きしめてきた。
ちょ、ちょっと待って!

「た、辰也!みんないるから!」
「それがどうしたの?」
「どうしたのって…あ!」

そうだ!今こそ敦が言っていたのを試す時だ!

「辰也、あのね!」

どうにか辰也の腕を抜け出して、辰也の顔をじっと見上げる。
辰也は目を見つめるとじっと見つめ返してくるから、少し恥ずかしい。
だけど、ちゃんと言わなくちゃ!

「あのね」
「うん」
「私、こういう…みんなの前でくっつくより、…二人きりでくっつくほうが、好き、だな」

少し恥ずかしいけど、しどろもどろになりながらも必死に話す。
これでどうだ…!


「…うん」

辰也は真剣な目でじっと私を見つめる。
さっきみたいな甘い目線じゃない。
もしかしたら、わかってくれたかもしれない。
そう淡い期待を抱いた瞬間だった。

「可愛い」
「っ!?」

辰也はぎゅっと私を抱きしめて、キスをしてくる。
あれ、あれ!?

「ちょ、ちょっと辰也!」
「ん?」
「だからね、二人っきりのときのほうがね!」
「うん。後で二人っきりの時にもっとくっつこうね」

あれ!?なんか違うんだけど!!

「辰也、あのね!」
「可愛いなあ」

辰也は一切私の話を聞いていない。
あ、もうこれ無理だな。
私は羞恥に染まりつつもどこか冷静な心でそう思った。





その後、敦にとんでもない量のお菓子をおごることになるし、辰也はより一層暴走してるし、件の相談は散々な結果に終わった。











いつでも一緒
14.10.07





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