「うあー!また負けたー!」

そう叫んで部室の机に突っ伏す。
みんなで部室掃除をした後、出てきたトランプを見て「終わったらトランプでもするか」という話になって、掃除が終わった今、連続10回ババ抜きをしているところだ。

そして私の負け一8回、岡村先輩が1回、劉が一回。
なんでこんなに負けばっかりなの…?

ちん、運悪いね〜」
「ほんとになんで…?私ババ抜き得意なんだけど…」

家族や友人とやるときは勝率いいほうだ。
一体どうしてこんなに…。

「ていうかつまんない〜オレ全然ババ回ってこないし」
「いいことじゃねーの?」
「負けるのはやだけど全然ババ回ってこないのもつまんないよ」
「そりゃそうじゃな」

敦はそう言うとつまらなさそうに伸びをした。
ん?敦にババが回ってこないってことは…

「つーかいい加減帰んぞ。なんか熱中しちまったけど」
「そういえばもういい時間ですね」
「おう。つーわけでみんなお疲れさん」

福井先輩がそう言ってみんな部室から出ていく。
今日の鍵当番は岡村先輩。
「お前たちとっとと出てけー」と言って帰りを促す。

私も帰ろう。「お疲れ様でしたー」と言って校門へ向かう。
氷室とたまたま部室を出るタイミングが一緒だったので、なんとなしに一緒に帰る。

「はあー…」
「どうしたの?」
「私いつもはこんなにババ抜き弱くないんだけど」
「そう?」
「だって氷室が全然ババ引かないんだもん」

さっきの敦の言葉はそういうことだ。
私のカードを引くのは氷室で、氷室のカードを引くのは敦。
私が負けたとき、直前にババを引いた場合もあったけど、考えてみれば大体私がババを引いた後、氷室は全然私のババを引いてはくれなかった。

「私ってそんなにわかりやすい?」
「うん」

「うん」って…。
氷室は確かにポーカーフェイスだし、ババを取られないようにするのはうまそうだけど、
さっきも言った通り、私はどちらかというとババ抜きとかこういった類の勝負は得意な方なのだ。
ババを取ることはあっても、ババを悟らせないのはうまいと思ってたんだけど…。

「私もポーカーフェイスには自信あるのに」
「そうだね。わかりにくいかも」
「え、どっちよ」

わかりやすいと言ったと思ったら、今度はわかりにくいって…。

「みんなにはわかりにくいかもね」
「?」
「オレにはよくわかるよ」
「?なんで」
「いつも見てるからね」

そう言って氷室は私の顔を覗き込むようにして見つめる。
「いつも見てる」って、

「え、えええ!?」

いつも見てるって、見てるって…
それはつまり、その、そういうことなんだろうか。

「あの、氷室」
「なに?」

発言と行動だけ見れば間違いなく、それなんだけど、氷室がまったく顔色を変えないせいでよくわからない。

「本気?」
「もちろん」
「な、なんか本気に見えないんだけど…」
「そう言われるとショックだな」
「だって、全然表情変わらないし、緊張してる感じもしないし…」
「だったら証明してみせようか」

そう言うと、氷室は私にキスをした。

「好きだよ」

赤くなる私を余所に、ただ優しく微笑むだけの氷室。
一生トランプで勝てないだろうな、と思った。









ジョーカー
12.09.12