「ねー、キミ、バスケ部のマネージャーっしょ?」

秀徳高校との練習試合後、帰ろうと校門を出たときのこと。
生まれて初めて、俗に言う「ナンパ」をされました。




「はあ〜…」

自分の部屋のベッドに寝転がって、そのとき渡された紙を見る。
書いてあるのはその人の名前と電話番号、メールアドレス。

名前は高尾和成。秀徳の一年生レギュラー、ポジションはPGの人だ。
一年生にして強豪秀徳のレギュラーになっただけあって相当うまい。
ただ、こうやってナンパしてくるあたり、軽そう。

「………」

私は渡された紙をぐしゃぐしゃに丸めた。







「あ、さん」

一週間後、部活の帰り道。
例の高尾くんに会ってしまった。

「…え」
「うわー、そんな引かないでよ」
「…なんで、名前」
「ん?練習試合の時部員が呼んでたじゃん」

高尾くんはにっこり笑ってそう言う。
…名前、知っていたのか。
というか、私の顔も名前を覚えているとは思わなかった。
ナンパなんてされたことないから知らないけど、普通一週間前にナンパした子の顔なんて覚えていないんじゃないかな。

「…そう。じゃあ…」
「いやいや、送ってくよ。帰りこっち?」
「ナンパされた相手に送って行ってもらうほうが危ない気がするんですが…」
「え?ナンパ?」
「え?」

え、何その反応。
あれ…あのとき声掛けてきたのってこの人だよね…。
暗いから間違えてるんだろうか。思わずまじまじ彼の顔を見てしまう。

「そんな見られるとオレ照れちゃう」
「えっ…あ、ごめん」

見つめてみたけど間違いない。高尾くんだ。
試合中目立っていた彼を見間違えるわけがない。

「オレ、ナンパしたつもりじゃないんだけど」
「え?」
「ナンパなんて軽いもんじゃなくて、本気」

…本気……え………
ほ、本気って、本気!?

「オレ、マジでさんと付き合いたい。一回お茶とか、デートとか、そういうんじゃなくて」
「…っ」
「まー、会ったばっかだし?その辺りはこれから知って行ってください、みたいな?」

本気とは思えない言い方。
だけど、目が真剣だ。

「…本気?」
「本気じゃなきゃ、名前も顔も覚えてねーって」

…うん。練習試合のときに部員に名前を呼ばれたのなんて数えるほど。
こんな暗い中で、私の顔を見てすぐわかる。
そんなの、ちゃんと覚えてなきゃ、できない。

「あ、の」
「うん」

ちら、と高尾くんを見る。
…きっと、彼は真剣だ。
私も、真剣に返さないと。

「…とりあえず、お友達からで」
「オッケー。今はそれで十分」

高尾くんはそう言うとポケットから携帯を取り出した。

「どうせあの紙も捨てちゃったっしょ?」
「…いや、その…」
「?」
「…持ってる」

私はポケットに手を入れてぐしゃぐしゃになったメモを握りしめた。
なんとなく、捨てるのが惜しくて。
だって、練習試合の彼の様子が心に残っていたから。
私の方も、しっかりと、顔を覚えるほどに印象深くて。

「…マジで?」
「う、うん」
「やばい。超嬉しい」

高尾くんはそう言うと顔を押さえてその場にしゃがみこんだ。
指の隙間から見える彼の顔は、暗がりでもわかるほど、赤い。

「…あ、でも、私のアドレス知らないでしょ」
「うん」
「今、送るから」
「サンキュ」

携帯を持つ手がちょっと震える。
心なしか、高尾くんの手も。

「…連絡するから」
「う、うん」
「…家まで送ってっていい?」
「…お願いします…」






「はあ〜…」
「何見てんの?」
「これ」

そう言って彼に茶色くなってしわしわの紙切れを見せる。

「うっわ!お前…」
「物持ちいいでしょ」
「捨てろ!マジ捨てろ!」
「やだー」
「マジ黒歴史…!」

そう言うと和成はちょっと顔を赤くする。
10年前の、大切な思い出。

「まさかナンパされた相手と結婚するとはねー」
「…ナンパじゃねえって」
「うん。知ってる」
















10年後の話
13.03.03

高校時代に他校のマネージャーナンパして、その子とそのまま結婚したって言う某サッカー選手のエピソード
黒バスキャラだと高尾が一番それっぽいな〜と思って
ナンパに見せかけて実は一途!







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