「…んー…」

ふと目を覚ます。
時計を確認すれば、まだ朝の4時。
起きるような時間じゃない。昨日遅かったし。
もう一眠り…と思ったけど、少し喉が渇いた。
水でも飲もう。そう思って体を起こす。

「…う」

隣で眠る花宮が息を漏らす。
起こしてしまったかと思ったけど、まだ夢の中のようだ。

「…こうしてれば可愛いのにねえ」

無防備に眠る花宮の顔は少し幼く見える。
こうしていれば可愛いのに。
…可愛いなんて言ったら殺されそうだけど。

「…寝ようっと」

動いて花宮を起こしても可哀相だし、水は飲まないでもいいや。
そんなに喉渇いてるわけじゃないし。
…しかしよく寝てるなあ。

「…まーこちゃん」

せっかく花宮が寝入っているんだから、ちょっと好き勝手してみようかなと思ってそう呼んでみる。
多分意識のあるときに言ったら大変なことになる。
でも「まこと」って名前の人には一回読んでみたくなると言うか…。

「まこっちゃーん」
「…ん」

花宮は起きる気配はない。
なんか楽しくなってきた。

「…真」

今度は普通に名前を呼んでみる。
あまり花宮の名前を呼ぶことはない。
花宮、と苗字でずっと呼んできて、今更変えるのもなあと思ってしまう。
それに、花宮は私の苗字も名前も呼ばない。
人前だと『さん』と猫被った呼び方をしてくるけど、二人きりの時は「おい」とか「お前」とか、適当な呼び方だ。
それがほんの少し、寂しい。

「…えい」

花宮の頬を人差し指で突いてみる。

「…ん…」

花宮は少し体を動かす。
あ、起きちゃうかな。
そう思って手を引っ込めた瞬間、

「……」

花宮の唇が、私の名前を紡いだ。

「!」

思わず起き上がる。
い、今。

「…んあ」
「は、花宮」

私が急に起き上がったからか、花宮は目を覚ました。

「あー…今何時だ…」
「は、花宮、もう一回!」
「は?」
「もう一回!」

もう一回、名前を呼んでほしくて花宮の腕を掴む。

「…なんだよ。何朝から盛ってんだ」
「さ、盛ってないよ!」
「圧し掛かっておいて何言ってんだ」
「わっ」

花宮は私を自分の下に転がす。

「…ねえ、花宮」
「あ?」
「何か夢、見た?」

そう聞いてみると、花宮は少し黙る。

「…別に、何も」

少しだけあった間が、すべてを物語っているような気がした。












「…ん」

情事の後、寝入ってしまった彼女を花宮は見つめる。
先ほど言われた「何か夢、見た?」の意味を考えながら。

「……」

何か寝言を言ってしまったかと不安な表情を見せる。
見ていたのは、紛れもない彼女の夢。
寝言でも言っていたら失態だ、そう思って花宮は頭を抱える。

「…」

無防備に眠る彼女の髪を梳きながら、先ほどの夢を思い出す。
夢の中で何をしていたか、はっきりとは思い出せない。
ただ二人だけでいる、なんてことのない日常の夢だったはず。

「…変なこと言ってねーよな」

花宮は考えるのをやめた。
考えたところで何を言ったかわかるはずもない。
だったら眠って頭を休めた方がいい。

「…

花宮は小さな声で彼女の名前を呼ぶ。
いつもこの瞬間、彼女が寝入ってしまったときだけ。
花宮が彼女の名前を呼ぶことを、誰も知らない。













神様だけが知っている
14.02.25




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