「よお、」 4時間目が終わった後すぐ、特徴のある声が私の名前を呼ぶ。 顔を上げなくても誰かわかる。切原だ。 最近毎日のようにこうやって話しかけてくる。 「で、もう気は変わった?」 「何度話しかけられようと変わることはありませんと、この間言ったはずだけど」 「つめてー」 切原は悪戯っぽく笑いながら、私の前の席に座る。 事の始まりは2学期が始まってすぐのこと。 今みたいにいきなり切原が私の席の前にやってきて、「俺と付き合ってくんない?」と言ってきたのだ。 こんなみんなが見てる前で、と戸惑いつつ、私はその申し出を断った。 彼氏がいるわけでも好きな人がいるわけでもないけれど、切原のことが好きではなかったからだ。 ほとんど話したことがない上に、テニス部での話を聞く限り、切原にいいイメージは持てなかった。 「なんでは、俺のこと好きじゃねーんだろうな」 「なんでって聞かれたって…。理屈じゃないでしょ、そういうの」 「ああ、俺が好きなのも理屈じゃねーもんな」 切原はまた人目を気にせずさらっとこういうことを言う。 しかも、いつだって目を逸らさずに。 切原の目は怖くて、私は目を逸らしたくなるのに、切原はそれをさせない。 「、本当に俺のこと好きじゃねーの?」 「好きじゃないって、何度も言ってるじゃない」 「本当の本当に?欠片も?」 「好きじゃない」そう言おうとしたのに、切原の目を見てしまって私は言葉を詰まらせた。 切原の目は、真っ直ぐで、とても怖い。 深呼吸して、ゆっくり目を閉じて、下を向く。 これなら、切原の目は見えない。 「好きじゃない」 「嘘だね」 精一杯、声を振り絞って言ったその言葉を切原はあっさり否定した。 「ちゃんと俺の目見て言えよ」 私の手は切原に掴まれて、心臓は跳ね上がっていて、 もう一度「好きじゃない」とは言えなかった。 「なあ、もう認めちまえよ」 好きじゃないはずなのに、否定できない。 切原のことなんか好きじゃなくて、だけどどうしようもなく心をかき乱される。 恋とは違う、ときめきでもない。 ただ心の奥底で、切原のものになってしまいたいと、その感情だけが残ってる。 感情論 09.09.25 赤也誕生日おめでとう! 最近は可愛い赤也ばかり書いてきたけれど、 赤也を好きになったきっかけは原作のリョーマvs赤也戦だったわけで、 そのイメージに近い赤也を久しぶりに書いてみました。 |