「…遅い…」
今日は花宮と映画に行くことになっていて、外で待ち合わせだ。
それなのに、待ち合わせ時間になっても花宮は来ない。
まあ、アイツが時間通り来るとも思ってはいなかったけど…。
『おい木吉か!?』
「あー日向か?今どこにいるんだ?」
ぼーっと携帯を見ていると、隣の男の人が電話をし始めた。
人ごみだけど、大きな声なので目立つ。
『お前がどこにいるんだボケェ!いきなりふらふら〜っといなくなりやがって!』
「今?なんか犬の像の前だな」
『わかった動くなよ今から全員で締めにいくからな!』
「ああ、待ってるぞ〜」
電話の相手はずいぶんお怒りのようで、そっちの声まで聞こえてくる。
どうやら隣にいる彼が、一緒にいた人たちとはぐれてしまったらしい。
「!」
じっと彼を見ていたら、目が合ってしまった。
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
気まずいな、と思っていたらにっこり笑って挨拶されてしまった。
「いやー友達とはぐれちゃったみたいで」
「そうみたいですね」
「そっちは待ち合わせですか?」
「そうなんですけど、相手が遅刻してて」
彼は人見知りせず話しかけてくる。
雰囲気の柔らかい人で、私のぽんぽん会話してしまう。
「早く来るといいですね」
「そうですねー…あ」
そんな会話をしている間に、人ごみの中に花宮の姿が。
花宮はこちらを見ると、あからさまに嫌そうな顔をした。
「おお、花宮じゃないか!」
「?」
隣にいた彼が花宮の名前を呼ぶ。
え、知り合い?
「おいお前、なんでこいつといんだ」
「いやあ、誠凛のみんなと遊んでたらはぐれてたまたま」
「てめーにゃ聞いてねえよ!!」
花宮は不機嫌さマックスと言った声を出す。
どうやら本当に知り合いのようだ。
「花宮、ちょっと落ち着いて」
「うるせえ」
「痛っ!」
やたらと興奮する花宮をなだめようとそう言ったら、思いっきり頭をはたかれた。
「おいおい、彼女に何するんだ」
「あ!?」
「!」
彼女。
その言葉に私は固まる。
「誰がだ」
「彼女じゃないのか?」
「うるせーよ!おい行くぞ」
「わっ!?」
花宮は私の腕を掴むと歩き出す。
引っ張られて痛い。
「彼女と仲良くなー!」
彼が大声で言う。
自分の顔が、柄にもなく赤くなるのを感じた。
*
「花宮、映画は」
「うるせー、どうでもいい」
花宮は私の腕を引っ張って、映画館ではなく駅のほうに向かって歩く。
たぶん、これは家に帰る気だな。
不機嫌だし、これだと私は憂さ晴らしの相手だな…。
「……」
「なににやついてんだ」
「え?」
花宮に言われて顔を抑える。
にやついていたのか。
「……」
いや、だって、ねえ。
「彼女か?」って言われたら、ねえ。
あんまりそう言うこと言われないから、嬉しいんだ。
「別に?」
「…」
花宮は訝しげな目で私を見る。
「…何声かけられたからってはしゃいでんだよ」
「は?」
花宮から出てきたのは意外な言葉だった。
「はしゃいで…は?」
声かけられてはしゃぐって…え?
「にやにやしやがって」
花宮の声はより一層不機嫌になる。
ああ、なんだ。
ヤキモチ妬いてるのね。
「ふふ」
思わず笑ってしまう。
かわいいやつ…と言ったら怒られるだろうし、周りからは「は?」と思われるだろうけど。
花宮に言ったら不機嫌になるどころじゃないだろうけど。
私からしてみれば、わかりやすくて可愛いやつなのだ。
可愛い彼
14.05.07
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