「ー、こっちこっち!」
今日は花火大会。
友人と待ち合わせして、一緒に行く約束だ。
待ち合わせ場所に行くと、友達がすでに来ている。
「ごめん、遅れた?」
「ううんー大丈夫だよ」
友人たちはすでに来ていた。
私を含めて、みんな浴衣を着ている。
「花火楽しみだねー」
「私はたこ焼きも楽しみ!」
「ちょっと、やだもー」
話しながら花火の場所へ向かう。
周りにはたくさんの出店が出ていて、たこ焼きや綿あめなどが売られている。
「あ」
「おう、お前ら」
何食べようか、なんて話していると、屋台の前でクラスメイトの男子数名に会った。
彼らも花火を見に来たんだろう。
「福井、久しぶり」
「よー、お前らも花火見に来たんだな」
男子の中には福井の姿もある。
長い長い夏休み。会えなくて寂しいと思っていたら、まかさこんなところで会えるとは。
そうだ。せっかくの機会だ。
「ね、一緒に見ようって誘ってもいい…?」
友達に小さい声でそう提案する。
せっかくのチャンス、できれば棒に振りたくない。
「もちろん。ほら、ゴー!」
「う、うん!」
友達は笑顔で快諾してくれる。
早く誘わないと、みんな行ってしまう。
「ね、あのさ」
福井たちを引き留める。
心臓がバクバクいってる。
「せっかくだし、一緒に見ない?」
「おーいいな」
ものすごく緊張した私とは反対に、彼らはあっさり了承する。
目的地は一緒なんだし、仲が悪いわけでもないし、返答はわかっていたといえばそうなんだけど、やっぱり緊張してしまうのだ。
「じゃ、決まり!」
友達が「よかったね」と私に耳打ちする。
言ってみて、本当によかった。
「ありがと」
彼女の耳元でお礼を言う。
夏休みに会えただけで嬉しいのに、一緒に花火も見られるなんて。
「お前らどこで見るとかあんの?穴場とか」
「いや、いつも適当。そっちは?」
「似たようなもん。じゃ、適当に行くか〜」
そう言って男性陣は先陣切って歩き出す。
私たちより背の高い彼らは当然歩幅も広い。
人ごみをかき分けてさっさと歩いてしまう。
「あ、ちょ…っ」
着なれない浴衣を着た私たちは早く歩けるはずもない。
ちょっと待ってと声を掛けようとしたら、福井が他の男子の襟をつかんだ。
「おい、もうちょっとゆっくり歩いてやれよ」
「?」
「浴衣だから歩きにくいだろ、あいつら」
福井は他の男子たちにそう言うと、私たちの方に振り向く。
「悪いな、大丈夫か?」
「あ、う、うん。大丈夫!」
胸の奥がきゅんとなる。
こういうことを言える人なのだ。
だからもう、ドキドキが止まらなくなる。
「やだ、福井かっこいい…」
「えっ」
「もう、大丈夫よ取らないから」
友人は私に耳打ちする。
…もう。
「お前らなんか食いたいもんある?」
「お祭りと言ったら焼きそばでしょう!」
「私はたこ焼き!」
「おい女子食い意地張り過ぎだろ」
そんな会話をしてご飯を食べつつ、花火を見る場所へ向かう。
あともう少しで着く。
「あっ!?」
「!?」
そんなとき、突然足元からバランスを崩してしまった。
とっさに友達が支えてくれたから転ばずに済んだけど、足元を見ると右の下駄の鼻緒が切れている。
「あー…どうしよ」
「おい大丈夫か?」
男子たちも集まってくる。
これじゃ、歩けない。
「歩けるのか?」
「う、うーん…頑張れば」
「オレ多分それ直せるけど」
そう言ったのは福井だ。
思わず勢いよく顔を上げる。
「え、本当?」
「前家族のやったことあるし」
「あ、じゃあさ!」
私を支えてくれている友達が大きな声で言う。
「私たち先行って場所取っておくよ。ここにみんなで止まってたら邪魔だし。着いたら連絡するから」
友達は「ね?」と言ってウィンクする。
友達がせっかくこう言ってくれてる。の、乗らなきゃ!
「福井、あの、お願いしていい、かな」
「おう。んじゃお前ら先行っててくれ」
福井は私の手を取る。
自分の体温が一気に上がる。
「あ…」
「大丈夫か?」
福井に支えられながら、右足をあまり地面につかないようにしながら歩く。
距離が近くて、心臓の音が聞こえてしまいそうだ。
「そこ座ってろ」
「ん」
人気のない場所まで来て、福井と二人転がる大き目の石に腰を下ろした。
「…できそう?」
「多分…」
福井はハンカチと5円玉を取り出す。
私はその様子をじっと見つめた。
すごいな、こういうふうに直すのか…。
「できた」
「わ、ありがとう」
直してくれた下駄を履いてみる。
すごい、ちゃんと履ける!
「ありがとー!」
「どーいたしまして」
「ね、どうやって直したの?」
「ん?ハンカチをこう捩じって…」
少し福井との距離を縮めて、そう聞いてみる。
ハンカチと五円玉がいるのか…次なったら私もできるかな。
「!」
説明を聞いている最中、強い光と大きな音が響いた。
花火が始まってしまった。
「あ」
「やべ」
もうそんな時間になってしまったのか…。
「あー…のんびりしすぎたか」
「でも、ここからでもきれいに見えるね」
いつも見ている場所より遠いけど、人がいないからか視界が開けていてきれいだ。
それに、福井と二人きりで花火を見られるなんて、こんなにうれしいことはない。
心の中でひっそりガッツポーズをした。
「…きれいだ」
「うん」
「…いや、そっちじゃなくて」
「?」
ときどき花火に照らされる福井の顔は、赤い。
「…似合ってる、浴衣」
「え…」
「きれいだ」
ぽっと自分の顔が赤くなるのを感じた。
胸の奥が痛い。
痛くて苦しいけど、とても、温かい。
何か言わなきゃ、そう思うけど言葉が出てこない。
だから私は、私の隣に置かれた福井の手に、自分の手を重ねた。
「!」
福井は驚いた顔をした後、私の重ねた手をぎゅっと握った。
「……」
「……」
私も福井も、カバンの中で鳴っている携帯には気付かないふりをした。
きれい
14.08.07
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