休み時間、週番の私は集めた提出物を職員室に持っていこうと、それを持って教室を出た。

、それ、半分持つよ」

そう言ってくれたのは同じく週番の氷室だ。

「大丈夫だよ、そんなに重くないから」
「いいから」

そう言うと氷室は上半分を持ってくれる。
それで終わればいいのに、氷室は私の顔をじっと見る。

「あ、…ありがと」
「いいえ」

顔が赤くなるのを感じて、視線を逸らしてお礼を言えば、氷室はにっこりと笑った。
別に私だってちょっと顔を見られたぐらいじゃ赤くなったりしない。
原因は、3日前、週番最初の日。
今日みたいに職員室まで提出物を一緒に持っていったときのこと。

「オレ、が好きだよ」
「え?」

廊下の途中で、氷室がそんなことを言い出した。
それはあまりに自然で、「今日寒いね」なんて会話のような言葉のトーン。

「え?…ええ?な、何の話?」
「だから、が好きだよ」

好き?え?氷室が、私を?

「ああ、ありがとう…?」
「ちゃんと意味、わかってる?」

わけがわからないままお礼を言えば氷室は苦笑する。
意味、って。

に、恋をしているって言ったんだ」

恋。氷室が、私に。そうか…。

「え」
「うん」
「え、ええええ!?」

今告白されているという事実にようやく気付き、私は持っていたプリントを床に落とした。

「あ!」
「はい」

氷室はそれを手早く拾うと、揃えて私に渡す。

「あ、ありがとう…」
「いいえ」
「え、ていうか、あの、な、なんで?どうして私?」

混乱したまま、噛みながら氷室に聞く。

「好きになるのに理由なんているの?」
「…いりません」

至って冷静に答えられて、そのせいか私も少し落ち着いた。
落ち着いてきたけど、やっぱり意味はわからない。

「考えておいてね」

考えて、というのは、付き合うかどうかということだろう。

と、とりあえず、ちょっと待って。
今残念ながら私に彼氏という存在はいない。それどころか、好きな人も。
氷室のことは好きか嫌いかと言われれば、好き。
でも、それは氷室の好きとは違う。恋をしている、わけではない。

こ、こういう状態のときってどう返事をするべき!?
そりゃ、お互い好き合って付き合うのが一番理想の形だろう。
でも最近は「告白されたから付き合う」なんて話もあるし…。

ぐるぐる考えていると、氷室は優しく笑って言った。

「今週中に答えがほしいな」
「今週」
「うん」

つまり、私と氷室の週番が終わるまでか。
1週間、と言っても授業のある日だけだから5日間。


そんなこんなで、あれから週番の仕事をするたびに私は赤くなってぎくしゃくして。
氷室はそんな私の様子を楽しげに笑って見ている。

「おー、お前らご苦労さん」
「はい」

職員室で担任の先生にノートを渡す。
教室に帰ろうとすると、また引き留められてしまう。

「あと悪いんだけどさ、今日放課後昨日のアンケートの集計やってほしいんだ」
「集計?」
「ああ、二人でやればそんなに時間かからないと思うから」

そう先生に言われれば断れない。
氷室と二人で、か…。





「じゃあ、とっととやっちゃおう」

放課後、私の席で渡されたアンケートの集計をすることに。
氷室は私の前ではなく、机の横の部分の前に座った。
アンケートは記号を選択していくタイプのもの。
氷室が回答を読み上げて、私がそれを正の字を書いて集計していく。
これなら確かにそんなに時間はかからないだろう。

ちら、と、読み上げる氷室の顔を見る。
私は、どうしたいんだろう。

?」
「え?」
「聞いてた?」
「う、うん。Aでしょ」
「そう」

いけない、と思い視線をルーズリーフに向ける。
いつもは放課後も騒がしい教室が、今日に限って私たち以外誰もいない。

「…これで終わりかな」
「そうだね」

ふう、と一息つく。
これを先生の所へ持って行けば今日の週番の仕事は終わりだ。

私が答えを出すまであと1日。
あと、1日か。

、どうしたの?」
「え?」
「ボーっとしてる。何か考え事?」
「ま、まあ…」
「オレのこと?」
「なっ…」

氷室の言葉にポッと顔を赤くする。
そ、そりゃそうだけど!

、どうしたらオレを好きになってくれる?」
「え…」
がオレを好きになってくれるなら、なんでもするよ」

氷室は真剣な表情でそう言う。
どうしたら、なんて。

「そ、そんなのわかんないよ。氷室だって言ってたでしょ。好きになるのに、理由なんているのって」

その点は私も氷室に同意なんだ。
どうしたら好きになるかなんて、わからない。

「それはそうだけど、それでも、に好きになってほしいよ」
「そんなこと言われても、」

言いよどむと、氷室は私の頭に手を当てて私を引き寄せる。

「ひ、氷室」
「好きだよ」
「…っ」

この間よりずっと至近距離でそう言われ、心臓が高鳴る。

「ねえ、オレを好きになって」
「…ま、待って、その」

ドキドキが止まらない。
この高鳴りは、ただ、男の人に好きだと言われてるからなのか、それとも。

「私、その」

氷室の顔がだんだん近付く。
このままだと、まずい。

、ごめん」
「え」
「明日までって言ったけど、今返事が欲しい」

今、今って。
今答えを出さなきゃいけないのか。
氷室と付き合うか、付き合わないか。

氷室のことを好きか、どうか。


「は、はい」
「オレといて、ドキドキしない?」

ドキドキする。とても。
でも、それがどうしてなのかはわからない。

「オレはといるとドキドキするよ。が好きだよ」
「う、うん」
「今、すごくとキスしたい」
「…っ」

また少し氷室の顔が近付く。このままだと、くっついてしまう。



ダメだ。
私は氷室を、拒めない。

私はゆっくり目を閉じた。

「……っ」

唇に柔らかい感触を感じて、氷室の制服の裾を掴んだ。


「…氷室、あの」
「今のは、YESでいいんだよね」

氷室を好きかどうかわからない。わからないけど。
ドキドキして仕方なくて、キスしてほしいと、そう思ってしまった。

「氷室、私」

そう言えば、氷室はもう一度私に顔を近付ける。
だから私は、また目を閉じる。

わからない、けど。
私はきっと、氷室に恋をしている。


















恋をしている
12.11.25

リクエストの押せ押せ氷室でした
小町さんありがとうございました!


自分から期限を言い出しておいてやっぱ一日短くしてとか氷室は我慢を知るべきです










感想もらえるとやる気出ます!