「あ、辰也お疲れ」

部活後の部室、いつものように自主練する辰也を待っていた。
練習を終えた辰也はゆっくり部室に入ってきた。

「……」
「辰也?」

辰也の様子がいつもと違う。
心配になって駆け寄ると、辰也に抱きしめられた。

「わっ」
「……」

この感触は何度か覚えがある。
縋るような、私の存在を確かめるような、そんな感触。

「…辰也」
「……」

辰也の背中をよしよしと撫でる。
辰也はときどき、こういう顔をする。

「辰也、こっち」

辰也から少し体を離して、部室の端にある長椅子のところまで彼の手を引く。
そこに座って、自分の膝をぽんぽんと叩いた。

「ね」

膝枕だ。
辰也はこういうのが好きだから。

辰也はゆっくり寝そべって、私の膝に頭を乗せる。
辰也の前髪を撫でる。

「…ん」

辰也がこういう顔をするのは、大我くんのこととか、バスケのこととか、いろんなことが一人で抱えきれなくなったとき。
WCが終わった後、こういうことは少なくなったけど、まだ思うことはあるんだろう。

…」
「うん」

辰也が手を伸ばして、私の頬を撫でる。
少しくすぐったい。

「辰也」

辰也の伸ばした手を握る。
辰也の手は冷たい。
その手を温めるように、握る力を強めた。

「…」

辰也は目を細める。
何かを思い出すように。

私も辰也も何も言わない。
流れるのは、優しい時間。

辰也に笑いかけると、辰也は笑う。
どこか安心したような顔で。

辰也の中で耐えきれなくなったとき、辰也はこうなる。
私の名前を呼ぶだけで、他は何も言わず、縋るように私を抱きしめる。
だから私は、そんなときは辰也の傍を離れない。
ずっとここにいるよと、その言葉通り証明する。

「……」

辰也の前髪をもう一度撫でる。
辰也はずっと、こんな思いを抱えて来たんだろうか。
ずっと、一人で。

「…辰也」

これからはね、ずっと私がいるよ。
いつまでも、辰也と私がおじいちゃんとおばあちゃんになっても。
ずっとずっと、私があなたを支えるよ。













ここにいる
14.03.25







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