「…はい、火曜の3時で。はい。お願いします」
歯医者の予約を終え、電話を切る。
カレンダーに先ほど予約した日付に時間を書き込む。
歯医者はただの定期検診だ。虫歯とかがなければいいんだけど。
「……」
そう思いながら、視線をカレンダーの今日の日付に移す。
今日は私と辰也のちょっとした記念日だ。
辰也は覚えているだろうか。
「ただいまー」
玄関のドアの音とともに辰也の声が聞こえてくる。
買い物から帰ってきたようだ。
「おかえり」
「ただいま」
玄関へ行って辰也を迎える。
辰也は私にキスをすると、もう一度「ただいま」と言った。
「買い物、ありがと」
「いいえ。今日はカレー?」
「正解」
「やった」
買い物メモから推察したのだろう、今日の夕飯は辰也の予想通りカレーだ。
辰也は嬉しそうな声を出した。
「のカレーおいしいから」
「ありがと」
二人でレジ袋を持って台所へ持っていく。
もう一つ、紙の箱袋があるけれど、あれはなんだろう。
ああ言った包みになるものは頼んでいないと思うけど…。
「葵は?」
「さっきお昼寝したところ」
葵…私と辰也の子供のことだ。
今さっきお昼寝したばかりだから、まだしばらくは起きないだろう。
「そうか、ちょうどいい」
「?」
ちょうどいいとは珍しい。
辰也は葵が眠っていると葵と遊べなくて寂しがるのに。
「葵が起きる前に食べようか」
辰也は人差し指を唇の前に持ってきて、先ほどの箱の袋を私に渡す。
よく見ると側面にケーキ屋の名前が書いてある。
「ケーキ?」
「うん」
確かにまだ葵は幼いからケーキを食べさせるわけにはいかない。
だからと言って食べさせられないものを葵の前で食べるのもかわいそうだ。
なるほど、それで「ちょうどいい」と言ったのか。
「わ、ありがとう。でもどうしてケーキ?」
「だって今日は10年目の日だろ?」
「!」
辰也の言葉に、顔を上げて視線をケーキから辰也に向ける。
10年目。そう、今日は私たちが付き合い始めて、10年目だ。
「…覚えてたの?」
「忘れるはずないだろ?」
結婚してからは結婚記念日を祝う代わりに、付き合い始めた日を祝うことはなくなった。
だから辰也ももう忘れているかなと思ったけど、辰也はやっぱり辰也だ。
「ふふ、嬉しい」
「今は結婚記念日があるけど…やっぱり10年目だしね」
「うん」
ケーキをお皿に入れて、紅茶を淹れる。
二人で並んでソファに座った。
「10年前はさ、これ以上の幸せないんじゃなかって思ったんだ」
辰也は紅茶を一口飲んでそう言った。
「に好きだって言って、に好きだって言ってもらえて…人生最高のときかもって思った」
「ふふ、私も」
辰也に好きだと言ってもらえて、とても嬉しかった。
こんなに幸せでいいのかなって、そう思うぐらいに。
「でもあれからもっと幸せなことがたくさんあったよ」
辰也は私を穏やかな目で見つめる。
その目をじっと見ていると、吸い込まれてしまいそうだ。
「初めて一つになったとき、プロポーズを受けてもらえたとき、のウェディングドレス姿を見たとき…籍を入れたとき」
「うん」
数えればキリがないほど溢れてくる、私と辰也の大切な思い出。
たいへんなことやつらいこともたくさんあったけど、それ以上に幸せなことだらけだった。
「それに、葵が産まれたとき」
「ふふ、辰也すごくはしゃいでたもんね」
「だって嬉しかったから」
葵が産まれたとき、辰也は子供みたいにはしゃいで喜んでいた。
昔から辰也は落ち着いていて実際の年齢より大人びて見えたけど、実際はそんなことない。
むしろ子供っぽいぐらいだ。
「、10年間たくさんの幸せをありがとう」
「こちらこそ」
「これからも、宜しくね」
「うん!」
辰也と一緒に歩んできたこの10年、とても幸せだった。
辰也と葵と進むこれからは、それ以上の幸せでありますように。
これからずっと
15.06.14
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