「ねえ、さん」

放課後、部活に行く途中、隣のクラスの子に話しかけられる。
去年同じクラスだった子だ。何回か話したことがあるだけで、特別親しいわけではない。

「なに?」
さんってバスケ部のマネージャーだったよね」

ああ、やっぱりこれか。
氷室が転校してきてから、こういうことを聞かれることが増えた。

「そうだけど」
「氷室くんって、付き合ってる子とか、好きな子とか、いるのかな」
「…付き合ってる子はいないみたいだけど、好きな子はさすがにわからないよ」

そんなの、私が聞きたいくらいだ。

「でも、彼女いないんだね…あのね、これ、渡して欲しいの」

そう言って彼女が差し出したのは、ピンクのハートのシールが貼ってある白い封筒。
どこからどう見ても、ラブレター。

「…氷室に?」
「う、うん。お願い!」
「………」

両手を合わせてお願いされる。
本当は断りたい。
なんで私が、ほかの女の子の氷室への恋路を手助けしなくちゃいけないんだ。

「…わかったよ」
「本当?ありがとう!」

だけど、断れる理由がない。
だって、私はただのクラスメイト。マネージャー。
「私も氷室を好きだから」と、そう言って断れたらどんなにいいか。



「はあ〜…」

部活も終わり、氷室が部室から出てくるのを待つ。
まさかみんながいる前で渡すわけにもいかないし、帰りに渡そう。
そう思って自主練を終え着替えている氷室を待っている最中だ。

「……」

さっきもらったラブレターを見つめる。
…人に頼まないで、自分で渡せばいいのに。
そう心の中で毒づくけど、私も人のことは言えない。
だって私は、思いを伝える勇気すらないんだから。

「あれ、
「!」

そんなことを考えていたら、部室のドアが開いた。
氷室が出てきて、私は思わず手紙を隠した。

「まだ帰ってなかったの?」
「う、うん。ちょっと考えごとを」

本当のことを言えばいいのに、嘘を吐く。
…手紙、渡さなきゃ。

「考えごと?」
「うん…」
「でももう遅いし、帰った方がいいよ」
「…そうだね、そうする」

そう言って氷室と一緒に歩き出す。
ラブレターを鞄に入れたまま。

「今日も暑いね」
「そうだね、練習中、熱気すごいもんね」

世間話をしながら帰り道を歩く。
手紙、どうしようと思いながら。

?」
「ん?」
「なんかボーッとしてない?大丈夫?」
「え…」
「さっき考えごとしてたって言ってたけど…悩み事?」

心臓が跳ねる。
その通りです…。

「あのね…」
「うん」

鞄の中に手を入れる。
手紙を手にした瞬間、心が重くなった。

本当は、破ってしまいたいけど。
そんなことをするわけには行かず、鞄から手紙を出した。

「…これ、隣のクラスの子から」
「……」
「はい」

氷室は手紙を見ると、不機嫌な顔になった。
手紙を受け取ろうとしないので、無理矢理手渡す。

「…どうしてが?」
「去年同じクラスだったの、その子。それで頼んできたみたいだけど」
「そうじゃなくて」

氷室は私の腕を掴む。
痛い。

「どうしてが、こういうことをするんだ」
「そんなの、頼まれたから」

氷室の顔は今まで見たことないぐらい険しい。
少し、怖い。

「断ればいいだろ」
「こ、断れないよ。だって私は」

ただのマネージャーで、クラスメイトで、友達とも言い難い存在。
そんな私が、どうやって断ればいい。

「じゃあ、断れるようにすればいい」

そう言って、氷室は私の唇にキスをする。

「!」
「これからは、「私の恋人に手を出さないで」って言いなよ」

頭がうまく働かない。
私の恋人、って。
氷室は指で私の唇をなぞった。

「もうこういうこと頼まれても、断ること」
「え、っと」
「わかった?」
「ちょ、ちょっと待」

頭が混乱して何が何だかわからない。
少し考える時間を下さい…!

「返事は「はい」だよ」
「…は、はい」

ピシャリとそう言われ、思わず返事をすると、氷室は笑ってもう一度私にキスをする。
とりあえず、頼まれたときのために断る練習をしておこう。
回らない頭でそう思った。










ラブレターの行方
13.06.11

ヒロインに他の女の子からのラブレター渡されてめっちゃ不機嫌になる室ちん
氷室はそういう間接的な想いの伝え方は嫌いそうですね





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