「つ、疲れた…」
「大丈夫?」

三人でキリタンポ鍋を食べた後、一緒に電車に乗る。
足がガクガクだ。

「体力ないなー、
「二人がありすぎるんです!」

夕飯を食べる前、アレックスさんがいきなり「雪合戦しようぜ!」と言って来たのだ。
見慣れない雪にテンションが上がったとかなんとか。
辰也はもちろん、アレックスさんも元プロ選手と言うことで、無尽蔵の体力と言うか。
二人に付き合っていたら、夕飯を食べるのも苦労するほど疲れてしまった…。

「いいなー雪。テンション上がる」
「でも大変ですよ。雪かきしなきゃいけないし…」
「そうか?あっちじゃ全然見ねーから嬉しいぞ」

アレックスさんは初めて見る土地にワクワクしているようだ。
子供みたいな顔で、少し可愛い。

「あ、ここだ」
「アレックス、降りるよ」
「おー」

駅に着いて、三人で外へ出る。
アレックスさんは、結局どうするんだろう…。

「オレはを送って行くから」
「あ、その前にタツヤの両親に会っときたいんだけど」
「あ、そっか。じゃあ三人で行こうか」
「え、わ、私も?」

辰也と、辰也のご両親と、アレックスさん。
そこに私が入るのって、なんだかすごく場違いな気がする…。

「うん。行こう」
「わっ!」

辰也は私の手を握って来る。
思わずその手を振りほどいた。

「あ、ごめん…」

辰也は驚いた顔をする。
でも、二人で歩くんじゃないんだし…。

「あの、手を繋ぐのは二人だけのときにね」
「……はい」

辰也は渋々頷く。
…もう。

「……」

本当は、それだけじゃないんだけど。
嫌な気持ち、黒くてモヤモヤした気持ち。
WCのときにも感じたけど、あのときはそれどころじゃなくなったし…。

「…行こう」

嫌だな。
本当に、嫌な気持ちだ。





「タツヤの家、ここか?」
「ああ」

三人で辰也の家まで着いた。
辰也のご両親はもう帰ってきているようだ。
辰也がインターホンを押して、中から足音が聞こえてくる。

「…私、やっぱり帰るね」
「え?」

辰也のご両親とアレックスさんも当然知り合いだろう。
積もる話もあるだろうし、私がいていい場所じゃない気がする。

「また明日ね」
!」

辰也が私の名前を呼ぶけど、振り向かないで走り出す。
ドアの開く音が聞こえる。
きっと四人でいろんな話をするはず。

私は少し、一人になりたい。








『もしもし、

家に着いてすぐ、辰也から電話があった。
出てみるとちょっと怒った口調だ。

『一人で帰ったら危ないよ。もう真っ暗なのに』
「…うん、ごめんね」
『…
「あ、アレックスさんどうした?」
『母さんが車出してホテルまで送って行ったよ』
「そっか」
『…ねえ、。何かあるなら、全部話して』
「…ヤキモチ妬いてるの!」

辰也が心配そうに私の名前を呼ぶから、至って明るく、深刻にならないような口調で言った。

「アレックスさん、辰也のこと小さいときから知ってるでしょ。だから、いいなって。それだけ」

「…わかってるよ。ヤキモチなんて妬かなくてもいいって」
『うん』
「でも妬いちゃうの。ごめんね」
『謝らなくていいよ』

辰也は優しい声で言ってくれる。

『何か嫌なことがあったらすぐに言ってね』
「うん」
に遠慮される方が、オレは嫌だよ』
「うん!』

辰也は優しい。
私が嫌な思いをしないように、できるだけ気を遣ってくれる。
その優しさに、溺れてしまいそうだ。

…本当は、言えてないことがまだあるんだけど。
それはまた、明日話そう。
直接、話がしたい。

「ね、アレックスさん、明日からどうするの?」

部活が休みの日は稀だ。
辰也は遅くまで部活をして、夜家に帰る。
辰也はアレックスさんに街を案内する暇なんてほとんどないだろう。

『適当に回るって言ってたよ。一人で大丈夫だろ。アレックスだし』
「そっか、どのくらいこっちにいるの?」
『一週間ぐらいって言ってたよ。明後日は学校休みだし部活もお昼に終わるから、一緒にどこか行こうか』
「…私も一緒でいいの?」
『もちろん。アレックスものこと気に入ってるしね』

そう言われてほっとする。
辰也の大切な人だ。
嫌われたらどうしようとか思っていたけど、よかった。

「じゃあ、楽しみにしてるね」
『ああ、よろしく』
「うん。私そろそろお風呂入るから」
『そっか。じゃあ、また明日』
「うん。バイバイ」

そう言って電話を切る。
アレックスさんはいい人だなあと思う。
安心する大きい手。きっと辰也はアレックスさんのあの手にたくさん励まされてきたんだろう。
とてもいい人で、知り合えてうれしいと思う。

…思うけど、私のこのアレックスさんに対する気持ちは間違いなく、ヤキモチ、だ。
妬くことなんて、何一つないのはわかってる。
辰也は私が好きで、辰也にとってアレックスさんはバスケの師匠で、アレックスさんにとって辰也は大切な教え子。

わかってる。わかってるけど。
辰也のことずっと昔から知っていて、うらやましいって思ってしまったり。
…キス魔って言ってたけど、辰也ともしてたのかなと思うと、どうしようもなくなってしまったり。

「…はあ」

ごろんとベッドに寝転がる。
…わかってるよ。大丈夫。
本当は妬かなくていいということも、この気持ちを、ちゃんと辰也に伝えなくちゃいけないと言うことも。

大丈夫。辰也はきっと受け入れてくれる。











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14.05.09