あの夜から、結局まともに眠れなかった。 「お疲れ様でしたー」 練習が終わり騒ぎ出す体育館。 ウィンターカップ予選も無事通過。 今日はありがたいことに少し早目に練習終了。 「氷室!」 「、もう帰れる?」 「うん」 てきぱきと片付けを終えて氷室の元へ。 今日は氷室の誕生日。 練習が終わったらケーキを買って氷室の部屋でお祝いする約束だ。 学校を出て、ケーキ屋へ。 ホールケーキは二人じゃ食べきれないし、1ピースのものを一つずつ。 「氷室、どれがいい?」 「イチゴのショートケーキがいいな」 「氷室も?」 「うん。いつもがおいしそうに食べてるから気になって」 氷室がそう言うので、私は笑ってイチゴのショートケーキを二つ頼んだ。 * 「誕生日おめでとー!」 「ありがと」 氷室の部屋でケーキを並べて、シンプルだけど誕生日パーティだ。 鞄の中からプレゼントを出して、氷室に渡す。 「ありがとう。開けていい?」 「うん」 「あ、マフラー…」 迷いに迷った挙句、そろそろ寒くなってきたし…と思ってマフラーにした。 気に入ってくれるだろうか。 「似合う?」 氷室はマフラーを付けてみる。 …似合うかどうか不安だったけど、杞憂だった。 そうだ、考えてみれば、氷室はきっと何を着たって似合うだろう。 「うん」 「明日から、毎日着けるよ」 「…うん」 自分がプレゼントしたものを、好きな人が毎日つけてくれる。 想像しただけで、心が弾んでしまう。 「」 氷室はマフラーをしまうと、私をぎゅっと抱きしめる。 暖かい。 「、好きだよ」 「私も」 「に祝ってもらって、すごく嬉しい」 耳元で囁かれて、くすぐったくて身を捩る。 一番好きな人の、誕生日。 喜んでくれて、本当に良かった。 「」 名前を呼ばれて顔を上げると、氷室の顔が近付く。 目を瞑れば、唇にキスを落とされる。 「…ん…」 優しい感触。人前でされるのは困るけど、氷室とキスをするのは好き。 すごくドキドキして、嬉しくなる。 「……」 氷室は唇を離すと、私の頭を撫でる。 あ、また。 また、寂しいと。 「?」 「え、っと…あの、ちょっと暑くて」 「ああ。ちょっと温度下げようか」 氷室はそう言うと立ち上がって壁に掛かっているエアコンのリモコンをいじる。 「……」 氷室は私の隣に座るとき、また少し距離をあける。 それがたまらなく寂しくて。 「」 「…っ」 氷室は俯く私の顔を覗き込む。 思わず手で顔を覆った。 「、どうしたの?」 「…なんでもない」 「なんでもないって顔じゃないよ」 氷室は心配そうに私を見る。 思わず目を逸らすと、氷室は私の顔を自分の方に向かせる。 「、ちゃんと話して」 氷室は私をまっすぐ見つめる。 もう、ダメだ。 「…へ、変なこと、言ってもいい?」 「うん」 「…嫌いになったり、しないでね」 「当たり前だろ」 氷室は私を優しく撫でる。 私は今、すごく、変なことを言おうとしている。 自分でもこんなふうに思うなんて、思ってなくて。 「…あのね」 「うん」 左手で顔を抑えたまま、右手で氷室の手を握る。 心臓が、痛い。 「…もっと、ね」 「うん」 うまく言えない。 キスだけじゃ、寂しい。もっと、氷室に、そう。 「…氷室に、触りたいの」 そう、そう。 もっと、氷室に触りたい。 「……」 氷室は私の頬に触れる。 そのまま優しく、キスをする。 「…」 「う、うん…」 「…触りたいって言うのは、これ以上のこと?」 氷室の言葉に、ゆっくり頷く。 そうしたら氷室は、私を抱きしめる。 「」 「…ご、ごめんね」 「どうして謝るの?」 「だって、この間ダメだって言ったばっかりなのに…」 私は本当に自分勝手だ。 ついこの間拒んだばかりなのに、今度は触れてほしいなんて。 「いいんだよ、そんなことは。もうどうでもいい」 氷室は言いながら、私を熱っぽい瞳で見つめる。 「が好きだよ。オレはに触れたい。だから、も同じこと思ってくれて、嬉しいんだよ」 ぎゅっと抱きしめられて、熱くキスをされる。 そう、これが。これが欲しかった。 でも、まだ足りない。 「…辰也」 名前を呼ぶと、辰也は驚いた顔をする。 そう呼びたいと思った。 「好きなの」 「うん」 「すごく好きで、だから」 氷室が好きで、最初は一緒にいるだけで幸せだった。 だけどそれだけじゃ物足りなくなって、他の女の子が一緒にいるのが嫌と思うようになって、 好きだと言ってもらっても、それでも足りない。 キスをしても、抱きしめてもらっても、まだ足りない。 この人にもっと触りたい。 辰也に触ってほしくて、もっと近づきたくて。 「…もっと、欲しいの」 辰也がもっと欲しい。辰也が大好きだから。 辰也と、一つになりたい。 ← top →#7.5 ※R18 18歳未満の方ご遠慮ください →#8 13.06.14 |